第五十話
「見つけた。」
その声が響いた瞬間。
世界が静止した。
高天原。
天魂樹。
神々。
観測者。
全てが。
一瞬だけ動きを止める。
そして。
裂け目の最奥から。
一人の少女が現れた。
白いワンピース。
裸足。
長い黒髪。
年齢は。
トワと同じくらいに見える。
だが。
何かが違った。
神ではない。
魂でもない。
創世主とも違う。
もっと。
根源的な存在。
少女はトワを見る。
そして。
泣きそうな顔で笑った。
「やっと会えた。」
トワの胸が大きく脈打つ。
知らない。
知らないはずなのに。
会いたかった。
ずっと。
ずっと昔から。
「……誰?」
少女は少し困った顔をする。
「そうだよね。」
「覚えてないよね。」
その言葉が。
妙に寂しく聞こえた。
創世主が前へ出る。
震える声で。
「あなたは。」
「まだ残っていたのですか。」
少女は頷く。
「うん。」
「最後まで。」
「残っちゃった。」
苦笑。
その瞬間。
最上位存在が反応する。
《対象確認》
《記録照合》
《認識完了》
初めて。
その声に揺らぎが混じる。
《原初個体》
神々が息を呑む。
創世主が目を閉じる。
そして。
静かに告げた。
「最初の人間。」
静寂。
「え?」
トワが固まる。
少女は照れ臭そうに笑った。
「そう呼ばれてた。」
「昔ね。」
ヨルの目が見開かれる。
レンも言葉を失う。
人間。
神より前。
魂より前。
最初の存在。
そんなものがいるはずがない。
「創世主より前なの?」
トワが聞く。
少女は首を横に振った。
「違うよ。」
「私は作られた。」
「この人に。」
創世主を見る。
だが。
次の言葉が全員を凍り付かせた。
「最初の世界で。」
沈黙。
「最初の世界?」
創世主は苦しそうに頷く。
「私の失敗作です。」
誰も言葉を発せない。
「今の世界じゃない。」
「その前に作った世界。」
「私は。」
創世主が俯く。
「一度失敗している。」
高天原に衝撃が走る。
世界は一つじゃなかった。
今の世界は。
最初ではない。
「その世界で。」
少女は続ける。
「私は生まれた。」
「たった一人の人間として。」
風が吹く。
どこか懐かしい風。
「神もいなかった。」
「輪廻もなかった。」
「私だけだった。」
トワの胸が痛む。
一人。
世界に一人だけ。
想像もできない。
「寂しくなかった?」
思わず聞く。
少女は笑う。
優しく。
少しだけ泣きそうに。
「うん。」
「すごく。」
創世主が目を閉じる。
「だから私は。」
「今の世界を作った。」
誰も独りにならないように。
その原点だった。
全ては。
この少女の孤独から始まった。
そして。
少女はトワへ歩いてくる。
一歩。
一歩。
近づくたび。
胸の奥が温かくなる。
「トワ。」
「あなたに会いたかった。」
「どうして?」
少女は微笑む。
「だって。」
そして。
誰も予想していなかった言葉を告げた。
「あなたは私の生まれ変わりだから。」
静寂。
レンが固まる。
ヨルが固まる。
創世主さえ息を止める。
トワ自身も理解できない。
「……は?」
少女は頷く。
「神籍の主。」
「希望。」
「シオン。」
「全部本当。」
「でも。」
少女の瞳が優しく細くなる。
「もっと前。」
「あなたは私だった。」
その瞬間。
トワの中で。
封じられていた最古の記憶が。
静かに目を覚まし始めた。




