第四十九話
誰も言葉を失った。
高天原の空。
無数の赤い瞳。
その中心に存在する。
巨大な何か。
観測者ですら。
跪いている。
それだけで。
格の違いが分かった。
「私を作った存在だ。」
創世主の言葉。
その意味を。
トワはすぐには理解できなかった。
「作った……?」
「うん。」
創世主は空を見上げる。
初めて見せる顔だった。
恐怖。
いや。
畏怖。
「私は最初の存在じゃない。」
「世界を作ったけど。」
「私自身も作られた。」
静寂。
ヨルも。
レンも。
アマツも。
黙って聞いている。
「外側には階層がある。」
「一つの世界。」
「それを観測する存在。」
「さらにそれを管理する存在。」
「そして。」
創世主の声が震えた。
「最上位。」
「全ての創造を管理する存在。」
裂け目の奥。
巨大な瞳が開く。
それだけで。
空間そのものが軋む。
神々が苦しみ始める。
「ぐっ……!」
「存在圧だ!」
雷神が膝をつく。
海神も。
風神も。
炎神も。
耐えられない。
名前すら持たない超越者。
その時。
巨大な声が響いた。
《報告》
無数の観測者が応える。
《異常世界確認》
《輪廻継続》
《創造者生存》
《希望再統合》
静寂。
そして。
最上位存在が答える。
《削除対象認定》
その瞬間。
世界の一部が消えた。
誰も攻撃を見ていない。
ただ。
高天原の端にあった神殿群が。
跡形もなく消滅した。
「……え。」
トワの声が震える。
爆発ではない。
破壊でもない。
存在そのものが。
無かったことになった。
「これが。」
創世主が呟く。
「本当の終わり。」
絶望が広がる。
だが。
その時だった。
「だから何?」
静かな声。
全員が振り向く。
トワだった。
「トワ。」
レンが驚く。
しかし。
トワは空を見上げていた。
恐怖はある。
足も震えている。
それでも。
逃げなかった。
「世界を消す?」
「駄目。」
あまりにも単純な答え。
神々が呆然とする。
「理由は?」
アマツが聞く。
トワは首を傾げた。
「だって。」
そして。
笑う。
「まだやりたいこといっぱいあるもん。」
レンが吹き出す。
ヨルも笑う。
ミコも。
樹巫女も。
気付けば。
神々まで笑っていた。
絶望の中で。
その言葉はあまりにも人間らしかった。
「友達と遊びたいし。」
「ユラと喧嘩もしたいし。」
「レンともまだ色々あるし。」
レンが顔を逸らす。
「だから。」
トワは空へ向かって言う。
「消させない。」
その瞬間。
希望の光が爆発した。
白金色。
高天原全体を包む光。
天魂樹が呼応する。
世界中の魂が応える。
そして。
創世主が気付く。
「そうか。」
涙を流しながら。
「だから希望だったんだ。」
トワは特別だから希望なのではない。
強いからでもない。
神だからでもない。
ただ。
生きたいと願う。
その当たり前を。
最後まで諦めないから。
希望なのだ。
すると。
最上位存在の瞳が初めて動いた。
トワを見る。
長い沈黙。
そして。
初めて感情のようなものが混じる。
《理解不能》
静寂。
《なぜ抵抗する》
《終焉は救済》
《消滅は安定》
トワは即答した。
「つまらないから。」
全員が固まる。
最上位存在まで沈黙した。
「悲しいこともある。」
「苦しいこともある。」
「でも。」
「楽しいこともある。」
「嬉しいこともある。」
「だから生きる。」
世界が静かになる。
その時。
最上位存在の奥で。
何かが揺れた。
まるで。
忘れていた記憶を思い出すように。
そして。
誰にも聞こえないほど小さく。
《……生きる》
そう呟いた。
創世主の顔色が変わる。
「まさか。」
何かに気付いた。
だが。
その答えを口にする前に。
巨大な裂け目のさらに奥から。
もう一つの気配が現れる。
最上位存在すら振り向く。
観測者たちが震える。
そして。
誰も予想していなかった声が響く。
「見つけた。」
その声は。
トワによく似ていた。




