第四十七話
神々の議場。
重い空気が流れていた。
トワの答え。
「誰も犠牲にならない方法を探す。」
その言葉に。
神々は沈黙していた。
ある者は呆れ。
ある者は笑い。
ある者は涙ぐんでいた。
だが。
天津カグロだけは違った。
笑っている。
けれど。
目が笑っていない。
「なるほど。」
静かな声。
「実に君らしい。」
カグロは席へ戻る。
その時だった。
樹巫女が突然顔を上げた。
「……え?」
小さな声。
しかし。
次の瞬間。
彼女の表情が凍りついた。
「離れて!」
叫び声。
全員が振り向く。
その瞬間。
カグロの足元から。
黒い影が噴き出した。
ドォォォォォン!!
議場が揺れる。
神々が立ち上がる。
「何だ!?」
「結界を!」
だが遅い。
黒い影は。
天井まで伸びた。
そして。
人の形になる。
巨大な黒い柱。
その中心で。
カグロが静かに笑っていた。
「ようやく。」
「ようやく終わる。」
神々が凍りつく。
「天津カグロ!」
雷神が怒鳴る。
「貴様何をした!」
カグロは振り返らない。
「救済だ。」
静かな声。
「終わりなき輪廻。」
「終わらない苦しみ。」
「終わらない悲しみ。」
「そんな世界。」
「最初から間違っていた。」
議場がざわつく。
「貴様……!」
「観測者側か!」
誰かが叫ぶ。
カグロは微笑んだ。
「側ではない。」
「正しいだけだ。」
その瞬間。
黒い影が広がる。
神々の席を飲み込む。
悲鳴。
神々が次々と拘束される。
トワは息を呑んだ。
これは。
侵食だ。
天魂樹を蝕んでいたもの。
その源が。
ここにいた。
「止めろ!」
レンが飛び出す。
白銀の翼が広がる。
だが。
カグロは動じない。
「黎。」
「お前も疲れただろう。」
レンの動きが止まる。
「何。」
「守り続けるのは苦しい。」
「失うのは怖い。」
「だから終わらせよう。」
甘い声。
囁き。
しかし。
レンは一歩前へ出る。
「断る。」
即答。
「俺は。」
トワを見る。
「守ると決めた。」
トワの胸が熱くなる。
その時。
ヨルが笑った。
「珍しく格好いい。」
「うるさい。」
アマツも前へ出る。
「三対一だ。」
「降参する?」
カグロは静かに目を閉じる。
そして。
少しだけ悲しそうに言った。
「そうか。」
「なら。」
「見せよう。」
議場全体が揺れる。
天魂樹の根が軋む。
空が裂ける。
その奥。
巨大な赤い瞳が開く。
観測者。
いや。
その一部。
カグロの身体から。
黒い光が溢れる。
神の姿が崩れていく。
樹巫女が震える。
「まさか……。」
「ずっと。」
「最初から。」
カグロは微笑む。
「そうだ。」
「私は神じゃない。」
静寂。
「観測者の欠片だ。」
神々が絶句する。
何千年も前から。
高天原に潜んでいた。
観測者の分身。
それが。
天津カグロだった。
そして。
彼はゆっくりトワへ手を伸ばす。
「神崎トワ。」
「希望。」
「最後の欠片。」
「君さえ消えれば終わる。」
その瞬間。
トワの胸が光る。
白い光。
そして。
遥か遠く。
天魂樹の頂上から。
もう一人のシオンの光も応えた。
二つの希望。
離れていた半身。
その光が。
初めて共鳴する。
高天原全体を揺らしながら。
最大の戦いが。
幕を開けた。




