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神籍のトワ  作者: 灯野 しおん
第四章 高天原の呼び声

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第四十六話

光の門をくぐった瞬間。


 トワは息を呑んだ。


 空が近い。


 いや。


 空ではない。


 枝だ。


 見上げる限り。


 果ての見えない巨大な枝。


 天を支える樹。


 天魂樹。


 その枝の上に。


 神殿や街が築かれている。


 川のように流れる光。


 空を渡る白い鳥。


 雲の上を歩く神々。


 神話の世界。


 高天原。


「……すごい。」


 トワが呟く。


 ユラたちも目を丸くしていた。


『オオキイ。』


『キレイ。』


 ヒカリはすでに走り回りそうな勢いだ。


 だが。


 樹巫女だけは静かだった。


 その表情に。


 微かな焦りがある。


「急ぎましょう。」


 樹巫女が言う。


「時間がありません。」


「核が危ないの?」


 トワの問いに。


 少女は頷く。


「はい。」


 そして。


 少しだけ躊躇ってから。


「もう一つあります。」


 嫌な予感。


 レンも表情を変える。


「何だ。」


 樹巫女は天魂樹を見上げた。


「神々が割れています。」


 静寂。


「……割れてる?」


「意見が。」


 天之御影が苦い顔をする。


「そういうことか。」


 樹巫女は頷いた。


「全ての神が世界を守ろうとしているわけではありません。」


 トワは言葉を失う。


「なんで?」


 当然の疑問だった。


 世界が終わるかもしれない。


 なのに。


 反対する神がいる。


 樹巫女は悲しそうに笑った。


「神にも恐れがあります。」


「……。」


「観測者は絶対です。」


「勝った世界はありません。」


「だから。」


 その先を。


 ヨルが言った。


「諦めたんだな。」


 樹巫女は答えなかった。


 それが答えだった。



 高天原中央神殿。


 巨大な円形の議場。


 数百の席。


 その全てに。


 神々が座っていた。


 雷を纏う神。


 海を纏う神。


 炎の神。


 風の神。


 無数の神々。


 そして。


 彼らは一斉にトワを見る。


 圧力。


 普通の人間なら立っていられない。


 しかし。


 トワは負けなかった。


 レンが隣にいる。


 ヨルがいる。


 アマツがいる。


 それだけで十分だった。


 その時。


 一人の神が立ち上がる。


 銀色の長髪。


 白い装束。


 若い男に見える。


 しかし。


 瞳だけが冷たい。


「神崎トワ。」


「歓迎しよう。」


 その声に。


 樹巫女の表情が曇る。


 レンも警戒した。


「誰?」


 トワが小声で聞く。


 ミコが答える。


「天津カグロ。」


「高天原評議会筆頭。」


「神々の代表。」


 だが。


 その声は硬い。


 明らかに。


 信用していない。


 カグロは微笑む。


 だが。


 その笑顔は冷たい。


「君に会いたかった。」


「……。」


「神籍の主。」


「最後の希望。」


 トワは違和感を覚えた。


 言葉は丁寧。


 だが。


 どこか別のものが混じっている。


 期待ではない。


 執着。


 その時。


 カグロが告げる。


「まず確認したい。」


「君は世界を救うためなら。」


 静寂。


「自分を犠牲にできるか?」


 空気が凍った。


 レンの目が細くなる。


 ヨルの表情が消える。


 アマツが眉をひそめた。


 樹巫女が顔を上げる。


 トワだけが。


 まっすぐカグロを見る。


「嫌だ。」


 即答だった。


 議場がざわめく。


 神々が驚く。


 カグロですら一瞬固まった。


「なぜだ。」


 トワは首を傾げる。


「だって。」


 そして。


 当たり前のように言った。


「私が消えたら。」


「悲しむ人いるでしょ。」


 レンが目を閉じる。


 ヨルが少し笑う。


 アマツは吹き出した。


「だから。」


 トワは続ける。


「誰も犠牲にならない方法を探す。」


「それが希望じゃないの?」


 静寂。


 神々が言葉を失う。


 その中で。


 ただ一人。


 カグロだけが。


 静かに笑っていた。


 だが。


 その瞳の奥で。


 黒い何かが揺れた。


 まるで。


 観測者と同じ色をした闇が。


 誰にも気付かれないまま。


 微かに。


 蠢いていた。

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