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神籍のトワ  作者: 灯野 しおん
第四章 高天原の呼び声

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第四十五話

七日。


 世界の終わりまで。


 残された時間だった。


 会議室は重苦しい沈黙に包まれる。


 《処理完了まで残り七日》


 その言葉が誰の頭からも離れない。


 しかし。


 トワは前を向いた。


「行こう。」


 レンが見る。


 ヨルも。


 アマツも。


「高天原。」


「全部思い出す。」


 トワの声は震えていた。


 怖くないわけじゃない。


 けれど。


 逃げる理由もなかった。


 世界には。


 守りたい人たちがいる。


 ユラ。


 ヒカリ。


 レン。


 ヨル。


 そして。


 まだ会ったこともない誰か。


 未来に生まれる魂たち。


「だから行く。」


 静かな決意。


 レンが小さく笑った。


「知ってた。」


「何それ。」


「どうせそう言う。」


 少しだけ空気が和らぐ。


 天之御影は頷いた。


「では。」


「高天原への門を開きます。」



 東京支部最深部。


 封印区域。


 神籍管理局でも限られた者しか知らない場所。


 巨大な円形広間。


 床一面に神代文字が刻まれている。


 中央には。


 巨大な鳥居。


 白銀の鳥居だった。


 黄泉駅の鳥居とも違う。


 京都の鳥居とも違う。


 もっと古い。


 神話より古い何か。


「これが。」


 トワが見上げる。


「高天原の門。」


「うん。」


 ミコが頷く。


「本来は神しか通れない。」


「でも。」


 ヨルが笑う。


「今回は特別だ。」


 アマツも肩を竦める。


「世界滅亡寸前だからね。」


「軽いなぁ。」


 そんなやり取りをしながら。


 全員が門の前へ立つ。


 その時。


 ユラが肩の上で震えた。


『トワ。』


 珍しく真面目な声。


『イヤナヨカン。』


 ヒカリも頷く。


「誰かいる。」


 空気が変わる。


 次の瞬間。


 鳥居の向こうから。


 足音が聞こえた。


 コツ。


 コツ。


 コツ。


 誰かが歩いてくる。


 全員が身構える。


 やがて。


 白い霧の中から。


 一人の少女が現れた。


 十二歳ほど。


 黒髪。


 巫女装束。


 だが。


 瞳だけが異質だった。


 金色。


 まるで星空みたいな瞳。


 少女はトワを見る。


 そして。


 ぽろりと涙を流した。


「やっと。」


 震える声。


「やっと帰ってきた。」


 トワは戸惑う。


「え?」


 少女は泣きながら笑った。


「おかえり。」


 その瞬間。


 天之御影が跪いた。


 レンが目を見開く。


 ミコが息を呑む。


 アマツの表情が消える。


 あり得ない反応だった。


 神々ですら。


 頭を下げる。


 少女は静かに言った。


「久しぶりですね。」


 その声は。


 幼いのに。


 どこまでも古かった。


「神籍の主。」


 トワの胸が強く脈打つ。


 少女の姿が揺れる。


 一瞬だけ。


 その背後に巨大な影が見えた。


 天魂樹。


 いや。


 樹そのものだった。


 天之御影が震える声で告げる。


「天魂樹の化身……。」


樹巫女いつきみこ。」


 少女は微笑む。


「はい。」


「高天原へようこそ。」


「最後の神々の国へ。」


 その瞬間。


 白銀の鳥居が開く。


 眩い光の向こう。


 雲海。


 無数の神殿。


 天を貫く巨大な樹。


 神話の世界。


 高天原が。


 ついに姿を現した。

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