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神籍のトワ  作者: 灯野 しおん
第四章 高天原の呼び声

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第四十四話

誰も動けなかった。


 天魂樹の頂上。


 銀髪の少女。


 トワと同じ顔。


 同じ瞳。


 同じ声。


 違うのは。


 その存在感だった。


 冷たい。


 あまりにも冷たい。


 まるで。


 感情そのものを置き忘れたような。


「私は本当のシオン。」


「あなたが忘れた半分。」


 静かな声。


 トワの胸が苦しくなる。


 知らないはずなのに。


 知っている。


 会ったことがないのに。


 覚えている。


「……嘘。」


 思わず呟く。


 少女は首を振った。


「嘘じゃない。」


「あなたも分かってる。」


 その瞬間。


 トワの胸の奥で。


 白い光が揺れた。


 痛み。


 そして。


 懐かしさ。


「トワ!」


 レンが肩を掴む。


 その声で意識が戻る。


 少女はレンを見る。


 少しだけ。


 寂しそうに。


「黎。」


「久しぶり。」


 レンの表情が固まる。


 黎。


 その名で呼ばれると。


 心の奥がざわつく。


「お前は誰だ。」


 低い声。


 少女は答えた。


「シオン。」


「最初の希望。」


「最初の魂。」


「創世主が最初に作った光。」


 創世主が目を閉じる。


 苦しそうだった。


 まるで。


 知っていた秘密を。


 ついに見つけられてしまったように。


「そうか。」


 ヨルが呟く。


「だから足りなかったんだ。」


 全員が振り向く。


 ヨルはトワを見る。


「ずっと違和感があった。」


「シオンは希望だった。」


「でも。」


「今のトワは優しすぎる。」


 トワが目を丸くする。


「ひどくない?」


 アマツが吹き出す。


「それは確かに。」


 しかしヨルは真剣だった。


「希望には光だけじゃなく。」


「前へ進む強さも必要だった。」


「諦めない意思も。」


「未来を掴む執念も。」


 そして。


 少女を見る。


「全部そっちに残ってた。」


 静寂。


 少女は微笑んだ。


「正解。」


 その瞬間。


 トワの身体が震えた。


 頭の中へ。


 知らない記憶が流れ込む。


 創世主。


 ヨル。


 黎。


 そして。


 もう一人の自分。


 二人のシオン。


 一人は優しさ。


 一人は意志。


 創世主が魂を砕いた時。


 希望も二つに割れていた。


 トワは人々を守るため。


 もう一人のシオンは。


 創世主を探すため。


 何万年も。


 たった一人で。


「……。」


 少女の瞳に。


 一瞬だけ疲れが見えた。


 途方もない時間。


 誰にも会えず。


 誰にも知られず。


 ずっと。


 歩き続けていた。


「見つけたよ。」


 少女は創世主を見る。


「ずっと探してた。」


 創世主の瞳が揺れる。


「シオン。」


「迎えに来た。」


 その時だった。


 ゴォォォォォォン――


 天魂樹が悲鳴を上げる。


 腐食。


 黒い侵食が一気に広がる。


 枝。


 葉。


 魂。


 全てを飲み込んでいく。


「まずい!」


 天之御影が叫ぶ。


「核まで届く!」


 創世主の顔色が変わる。


「そんなはずない。」


 だが。


 モニターの奥。


 黒い闇が笑った。


 初めて。


 感情を見せた。


 《統合確認》


 《希望回収対象確認》


 《処理完了まで残り七日》


 全員が凍りつく。


 七日。


 たった七日で。


 世界が終わる。


 そして。


 少女――もう一人のシオンが。


 静かに言った。


「高天原へ来て。」


「全部思い出さないと。」


「今度こそ負ける。」


 トワは息を呑む。


 高天原。


 神々の国。


 物語はついに。


 世界の中心へ向かう。

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