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神籍のトワ  作者: 灯野 しおん
第四章 高天原の呼び声

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第四十三話

黎。


 その名前が響いた瞬間。


 レンの身体が大きく揺れた。


「っ……!」


 頭の奥が痛む。


 見たことのない景色。


 知らない声。


 知らないはずの記憶。


 なのに。


 懐かしい。


 レンは膝をついた。


「レン!」


 トワが駆け寄る。


 その瞬間。


 レンの瞳が白銀に染まった。


 会議室が光に包まれる。


 そして。


 全員の意識が引き込まれた。


 記憶の世界へ。



 そこは。


 世界が生まれる前だった。


 暗い海。


 終わりのない静寂。


 その中に。


 三つの光があった。


 白。


 黒。


 銀。


 トワは息を呑む。


「私……。」


 白い光。


 シオン。


 黒い光。


 ヨル。


 そして。


 銀の光。


 レン。


 いや。


 黎。


 三つの光は並んでいた。


 ずっと。


 最初から。


 創世主の傍で。


 その時。


 優しい声が響く。


『君たちは私の願いだ。』


 創世主。


 まだ今より少し幼い姿。


『シオン。』


『君は希望。』


 白い光が輝く。


『ヨル。』


『君は寄り添う夜。』


 黒い光が揺れる。


『そして黎。』


 銀の光が応える。


『君は境界だ。』


 静寂。


『始まりと終わり。』


『命と死。』


『世界の内側と外側。』


『その全てを繋ぐ者。』


 トワは息を呑む。


 だから。


 レンはいつも境界にいた。


 神でもない。


 人でもない。


 魂でもない。


 どちらにも属していた。


 その時だった。


 暗闇が揺れる。


 赤い瞳。


 観測者。


 巨大な影が現れる。


 世界すら存在しない場所へ。


 観測者が現れた。


『異常確認。』


『排除対象。』


 創世主が前へ出る。


『待って。』


『この世界は――』


『不要。』


 無慈悲な声。


 その瞬間。


 観測者の力が放たれる。


 世界の原型が崩れ始める。


 創世主は三人を見る。


 悲しそうに。


 そして。


 微笑んだ。


『ごめんね。』


『まだ早かった。』


 シオンが叫ぶ。


 ヨルが泣く。


 黎が手を伸ばす。


 だが。


 届かない。


 創世主は自らの魂を砕く。


 無数の光。


 世界へ降り注ぐ。


 その最後。


 最も大きな欠片が。


 黎へ飛んだ。


『君に託す。』


『皆を守って。』


 銀の光が震える。


『君だけは覚えていて。』


 そして。


 世界が始まった。



 記憶が終わる。


 会議室へ戻る。


 レンは立ち尽くしていた。


 全てを思い出した。


 なぜ自分がトワを守り続けたのか。


 なぜ初めて会った時から。


 放っておけなかったのか。


 なぜ。


 命を懸けても守ろうとしたのか。


 理由は単純だった。


 約束したからだ。


 世界が始まる前に。


 トワを見る。


 トワも見ていた。


 何も言わない。


 でも。


 分かった。


 互いに。


「レン。」


「……トワ。」


 その時。


 創世主が微笑む。


「やっと揃った。」


 三つの光。


 希望。


 夜。


 境界。


 世界を支える最初の欠片たち。


 だが。


 その瞬間。


 会議室全体が激しく揺れた。


 警報が鳴り響く。


「緊急事態!」


 カナメの叫び。


「高天原最上層に反応!」


「何!?」


 モニターが切り替わる。


 そこに映ったのは。


 天魂樹の頂上。


 本来誰も入れない場所。


 その枝の先に。


 一人の少女が立っていた。


 銀色の髪。


 真紅の瞳。


 そして。


 トワと同じ顔。


 少女は静かに微笑む。


「久しぶり。」


 トワの背筋が凍る。


「……誰。」


 少女は答える。


「あなた。」


 そして。


 創世主でさえ凍りつく名前を口にした。


「私は本当のシオン。」


「あなたが忘れた半分。」

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