第三十一話
新幹線が京都駅へ滑り込む。
窓の外には、
灰色の空が広がっていた。
六月の京都。
本来なら観光客で賑わうはずなのに。
どこか静かだった。
トワは窓の外を見る。
「変な感じ。」
レンが頷く。
「魂が減ってる。」
その言葉に。
トワの胸がざわつく。
見えるわけではない。
でも。
確かに何かが違う。
街そのものが、
息を潜めているみたいだった。
京都駅のホームへ降りる。
その瞬間。
ヒカリが立ち止まった。
「……聞こえる。」
「何が?」
ヒカリは伏見の方角を見る。
「泣いてる。」
ユラたちも震える。
『イッパイ。』
『タクサン。』
ミコが目を閉じる。
「輪廻へ戻れない魂たち。」
静かな声。
「アマツの近くに集まってる。」
まるで。
迷子の子供が親を探すように。
数時間後。
伏見。
夕暮れ。
トワたちは目的地へ辿り着いた。
朱色の千本鳥居。
そのはずだった。
だが。
目の前にあるのは。
黒。
どこまでも黒い鳥居。
闇そのものみたいな色。
連なる鳥居が、
山の奥まで続いている。
周囲に人はいない。
いや。
正確には。
近づけない。
結界。
神籍管理局京都支部が張った封鎖線の向こうに。
異界が生まれていた。
トワは息を呑む。
「これが……。」
ミコが呟く。
「黄泉と現世の境界。」
その時。
結界の向こうから声がした。
「来たね。」
全員が振り向く。
鳥居の最上部。
一番高い場所。
少年が立っていた。
白い髪。
金色の瞳。
アマツ。
彼は微笑む。
まるで。
友達を迎えるように。
「待ってた。」
トワの心臓が鳴る。
不思議な感覚。
怖い。
でも。
会いたかった。
そんな気持ちまで湧いてくる。
レンが前へ出る。
「近づくな。」
アマツは笑う。
「相変わらずだね。」
そして。
レンを見て。
少しだけ首を傾げた。
「君も寂しい子だ。」
その瞬間。
レンの顔から笑みが消えた。
アマツは再びトワを見る。
「神籍管理局は嘘をついてる。」
静かな声。
「空蝕も嘘をついてる。」
「……。」
「ミコも全部は話してない。」
ミコが目を伏せる。
トワが気付く。
否定しない。
つまり。
何か隠している。
「トワ。」
アマツが手を差し出す。
「知りたくない?」
金色の瞳。
真っ直ぐな視線。
「どうして君が生まれたのか。」
トワの呼吸が止まる。
「どうして新しい魂を作れるのか。」
ユラたちも固まる。
ヒカリの瞳が揺れる。
「そして。」
アマツの笑顔が少し寂しくなる。
「どうして僕たちが、
ずっと一緒だったのか。」
その瞬間。
トワの脳裏に。
巨大な樹が見えた。
空へ届くほど大きな樹。
無数の光。
生まれていく魂。
その根元に。
二つの光が並んでいた。
一つは自分。
そしてもう一つは――
アマツ。
「っ……!」
膝が崩れる。
レンが支える。
だが。
アマツは悲しそうに微笑んだ。
「思い出しかけてる。」
その時だった。
突然。
空が裂けた。
轟音。
結界が揺れる。
黒い雷が走る。
そして。
空の裂け目から。
巨大な影が現れた。
鳥。
いや。
鳥の形をした何か。
山より大きい。
禍々しい存在。
ミコの顔色が変わる。
「まさか……!」
アマツですら目を見開いた。
「もう起きたの?」
巨大な影が目を開く。
赤い瞳。
そして。
世界そのものが震えた。
「■■■■■■」
言葉にならない声。
だが。
トワだけは理解した。
その存在が。
魂よりも古い何かであることを。
そして。
それが本当の敵であることを。




