第三十話
神籍管理局東京支部。
緊急会議室。
部屋の空気は重かった。
誰もが理解している。
京都が危険だ。
しかも相手は。
アマツ。
最初の魂。
カナメが巨大モニターを操作する。
京都市内の地図が表示される。
赤い領域。
それは。
伏見から広がり始めていた。
「侵食速度は毎時三キロ。」
隊員たちがざわつく。
「このままなら二日。」
「京都市中心部まで到達します。」
沈黙。
カナメが続ける。
「そして。」
画面が切り替わる。
赤い点。
無数。
「魂の異常消失。」
トワが息を呑む。
「消失?」
「正確には違います。」
カナメの顔は険しい。
「輪廻から外れている。」
部屋が静まる。
「魂が生死の循環へ戻っていません。」
ミコが目を閉じる。
最悪だった。
輪廻そのものが乱され始めている。
アマツが動くだけで。
世界の仕組みが揺らぐ。
それほどの存在。
「行く。」
トワが言った。
全員が振り返る。
「京都に。」
レンがため息をつく。
「言うと思った。」
「だって。」
トワは拳を握る。
「放っておけない。」
アマツの顔が浮かぶ。
寂しそうだった。
怖かった。
でも。
助けを求めているようにも見えた。
ミコが静かに言う。
「危険だよ。」
「うん。」
「たぶん今のあなたじゃ勝てない。」
「勝つためじゃない。」
トワは答える。
「話を聞きたい。」
その言葉に。
レンが少し笑った。
「神崎らしい。」
カナメは頭を抱えた。
「危険度最上位存在に会いに行く理由がそれですか。」
「うん。」
「頭が痛いです。」
本気だった。
だが。
ミコは少し微笑んでいた。
そして。
「なら。」
ゆっくり言う。
「伏見へ行こう。」
その瞬間。
部屋の空気が変わった。
翌日
東京駅。
早朝。
新幹線ホーム。
トワは少し緊張していた。
修学旅行以外で京都へ行くのは初めてだ。
ユラたちは興奮している。
『シンカンセン!』
『ハヤイノ!』
『オベントウ!』
ヒカリまで少し楽しそうだった。
「観光じゃないんだけど。」
トワが苦笑する。
レンは缶コーヒーを飲みながら歩く。
「まあ京都はいい所だよ。」
その言葉に。
一瞬だけ。
レンの表情が曇った。
伏見。
十年前。
シグレを失った場所。
レンにとっても特別な土地だった。
そして。
ホームの端。
誰にも見えない場所で。
ミコが空を見上げる。
「……嫌な予感がする。」
珍しく不安そうな顔。
その時。
遠く。
誰にも聞こえない声が響いた。
『待ってるよ。』
アマツだった。
金色の瞳が。
まるで。
ずっと昔から知る家族の帰りを待つように。
京都の空の下で。
トワを待っていた。




