第二話
翌朝
久世ヶ原高校の教室はいつも通り静かだった。
窓際の席で、トワはぼんやり外を見ている。
昨夜からほとんど眠れていない。
あの少年
空っぽの存在
そして最後に聞こえた声
”ミツケタ”
思い出すだけで胸の奥がざわつく。
「かんざきー、聞いてる?」
クラスメイトの声に、トワはゆっくり顔を上げた。
「・・・ごめん」
「珍しいね、ぼーっとしてるとか」
曖昧に笑って誤魔化す。
その時
教室前方で担任が手を叩いた
「ホームルーム始めるぞ。
あと、今日は転校生いるから」
教室が少しざわつく
転校生
この時期に?
トワは特に興味もなく再び窓に視線を戻そうとして
止まった
嫌な寒気
ぞわり、と
魂が警鐘を鳴らす
「入れ」
教室の扉が開く
黒いパーカー
気だるげな眼
無造作な黒髪
昨夜の少年がそこに立っていた
瞬間
トワの呼吸が止まる
教室の魂の色が揺れた。
ざわざわと。
本能的におびえるみたいに。
なのに誰も気づいていない。
クラスメイト達は普通に
「イケメンじゃん」
「雰囲気やば」
などと笑っている
少年は教室を見回し、
そしてまっすぐにトワを見た。
目が合う
その瞬間だけ
彼の『空白』が底なしの穴みたいに見えた。
「空木レンです」
静かな声
「よろしく」
普通の自己紹介
でも、トワには普通に聞こえなかった。
担任が教室後ろを指す。
「神崎の隣空いているからそこ使え」
教室が少しざわめく
トワの隣
レンはゆっくり歩きだす
一歩近づくたび周囲の魂の色が薄くなる。
誰も気づかない。
トワだけが見えている。
レンは席へ座ると机に頬杖をついた
「また会ったね」
小さな声
トワは硬直したまま前を向く
「なんで、ここにいるの」
「学校だから」
「そういう意味じゃない」
レンは少し笑った
その笑い方は子供みたいに無邪気なのに、どこか壊れている
「神崎トワ」
名前を呼ばれる
初めて会ったはずなのに、どうして知っている。
「君、昔から変わらないね」
トワの背筋に冷たいものが走る
「会ったことない」
「あるよ」
レンは窓の外を見ながら静かに言った
「君は覚えてないだけ」
その時だった
トワのパーカーのフードが小さくもぞりと動く。
レンの視線が止まる。
「へぇ」
ゆっくり細められる目
まるで、珍しいものを見つけたみたいに
次の瞬間
フードの中から小さな耳がぴこんと飛び出した」
トワは慌てて押さえる
だが遅かった
レンは完全に見ていた
数秒の沈黙
そしてレンは心底驚いたようにつぶやく。
「なんで君、”魂”を連れているの?」




