第三話
トワの心臓が大きく跳ねた。
レンの視線はフードの奥をまっすぐ見ている。
見えている
ユラが
普通の人間には見えないはずなのに。
トワは反射的にフードを押さえた。
「見間違い」
「いや」
レンは小さく笑う
「いるよね、白いやつ」
フードの中で、ユラが低く唸った
『イヤ・・』
その小さな声にレンの目が細まる
興味
観察
そして、どこか懐かしむような眼
「すごいな」
レンはぽつりと言った
「本当に居たんだ」
「‥何を知ってるの?」
「いろいろ」
曖昧な返事
トワは机の下で拳を握る
この少年は危険だ
本能がそう言っている
なのに彼から目を離せない
その時、教室前方で担任の声が響いた
「空木ー 初日なんだからちゃんと授業聞けよー」
「はーい」
やる気のない返事
教室に小さな笑いが起きる
普通
あまりにも普通の空気
なのに、トワだけが異物を隣に置かれている感覚だった。
授業が始まる
チョークの音
教科書をめくる音
窓の外の風
だがトワは、ひとことも、ひともじも入ってこなかった
隣から妙な気配を感じる
レンは頬杖をついたまま、ずっと窓の外を眺めていた
だが時々
本当に時々だけ
彼の視線がこちらを向く
監視されている
そんな感覚
昼休み
トワは逃げるように屋上へ向かった
重い扉を開ける
春の風が吹き抜けた
やっと息ができる
「・・・ふぅ」
フェンス際まで歩き、トワは小さく息を吐く。
その瞬間
パーカーの中からユラが飛び出した
『フウ・・・!』
「ごめん、苦しかった?」
ユラは耳を伏せたまま不安そうに校舎を見つめている
『アレ・・イヤ』
「レンのこと?」
ユラは小さく頷いた
『カラッポ・・・デモ・・・ナカニ、イル』
「中に?」
『・・・ワカラナイ』
ユラが震えている
ここまで怯えるのは初めてだった
トワはそっと抱き上げる
あたたかい
小さな鼓動
確かに生きている感覚
それに少しだけ安心したとき
「仲いいね」
声
トワの身体が凍り付く
振り返る
屋上の扉の前
レンが立っていた
鍵が閉まっていたはずなのに
黒いパーカーのフードをかぶり、相変わらず眠そうな顔をしている
「なんで・・・ここに」
「サボリ」
「答えになっていない」
「神崎もでしょ」
レンはゆっくり近づいてくる
ユラが威嚇するように毛を逆立てた
『クルナ』
「へえ」
レンがしゃがみ込む
「喋れるんだ」
『イヤ』
「嫌われているなぁ」
困ったように笑うレン
でも
その目だけはユラを捕らえて離さない
まるで、ずっと探していた何かを見るみたいに
「それ?」
レンが静かに言った
「君が作ったの?」




