第十九話
白い光が、
トワの身体から溢れていた。
暖かい。
優しい。
なのに、
地下空間そのものが震えている。
侵食が止まった。
列車も。
黒い手も。
巨大な怪物ですら、
静止している。
まるで。
世界そのものが、
トワを見ていた。
レンが目を見開く。
「……嘘だろ。」
カナメも言葉を失っていた。
隊員たちの魂の色が、
一斉に揺れる。
畏怖。
混乱。
そして。
希望。
トワ自身だけが、
何が起きているのか分からない。
「な……に、
これ……。」
胸が熱い。
鼓動が響く。
そのたびに、
白い光が波紋みたいに広がっていく。
すると。
地下に満ちていた黒い侵食が、
ゆっくり後退し始めた。
浄化。
いや。
もっと根源的な何か。
“書き換えている”。
そんな感覚だった。
列車内の人影たちが、
一斉にざわめく。
『……ああ。』
『あああ。』
『カミ……』
巨大な存在の無数の顔が、
トワを見つめる。
その奥に。
涙みたいなものが見えた。
『やっと。』
低い声。
『やっと、
生まれた。』
トワの頭へ、
大量の映像が流れ込む。
暗い海。
星のない空。
古い時代。
誰もいない世界。
そこで。
一人の“何か”が、
光を生み出していた。
小さな魂。
命。
最初の火。
「っ……!」
頭が割れそうに痛む。
膝が崩れる。
その瞬間。
レンが咄嗟にトワを支えた。
「神崎!」
レンの声で、
少し意識が戻る。
だが。
白い光は止まらない。
地下空間全体へ広がっていく。
すると。
列車内の人影たちが、
少しずつ変化し始めた。
黒かった輪郭へ、
色が戻る。
ぼやけていた顔が、
人間へ近づいていく。
泣いている。
みんな。
『……あたたかい。』
『まだ、
終わってなかった。』
『帰れる。』
その声を聞いた瞬間。
トワの胸が締め付けられる。
この人たちは。
ずっと苦しかったんだ。
ずっと。
帰れなかった。
巨大な存在が、
ゆっくりトワへ手を伸ばす。
黒い巨大な手。
なのに。
もう怖くなかった。
『神の子。』
その声は、
さっきまでと違った。
静かで。
悲しくて。
優しい。
『輪廻は、
まだ終わらないのね。』
その瞬間。
レンが前へ出た。
トワを庇うように。
「近づくな。」
巨大な存在が、
無数の目でレンを見る。
『空白の子。』
静かな声。
『お前は、
優しくなった。』
レンの表情が止まる。
『あの頃よりずっと。』
地下空間が静まり返る。
レンは何も言わない。
だが。
その手が、
僅かに震えていた。
その時。
白い着物の少女が、
列車扉の前へ現れる。
今度は。
ちゃんと顔が見えた。
泣きそうな、
優しい顔。
少女はトワを見る。
そして、
小さく微笑んだ。
『……またね。』
列車の扉が閉まる。
警笛。
轟音。
次の瞬間。
黄泉列車は、
闇の中へゆっくり消えていった。
静寂。
侵食も。
黒い手も。
全部消えている。
残ったのは。
崩れかけた地下施設と。
呆然と立ち尽くす神籍管理局の人間たち。
そして。
白い光を纏ったまま、
息を切らすトワだけだった。
カナメが震える声で呟く。
「……本当に、
新しい魂を。」




