第十八話
――ギィィィィ…………
列車の奥。
真っ暗な闇の中で“それ”は目を開いた。
巨大だった。
車両の奥に収まるはずがない。
なのに存在している。
矛盾した巨大さ。
黒い肉塊みたいな影。
無数の顔。
無数の腕。
無数の“人間だったもの”。
それらが絡み合って一つの存在になっている。
トワの呼吸が止まる。
見た瞬間、
本能が理解した。
見てはいけないものだ。
『――――』
声にならない声。
地下全体が震える。
隊員たちが次々に膝をつく。
「精神汚染……!」
「視認を切れ!!」
カナメが怒鳴る。
だが遅い。
モニターが黒く染まり、
照明が次々に破裂していく。
トワの頭へ、
大量の感情が流れ込む。
寂しい。
苦しい。
怖い。
死にたくない。
生きたい。
助けて。
――独りにしないで。
「っ……ぁ……!!」
耐えきれない。
涙が溢れる。
胸が痛い。
まるで、
世界中の孤独が流れ込んでくるみたいだった。
その時。
レンがトワの前へ出る。
完全に感情を失った目。
周囲の空間が、
静かに崩壊していく。
「……下がって。」
低い声。
それはもう、
人間の声じゃなかった。
カナメが叫ぶ。
「空木!!
ここで力を解放するな!!」
「じゃないと、
全部持ってかれる。」
レンが列車を睨む。
その瞬間。
闇の奥の巨大な存在が、
ゆっくり笑った。
無数の顔が、
一斉に。
『空白の子』
レンの動きが止まる。
『また、
邪魔をするの?』
地下空間が軋む。
トワは息を呑む。
“これ”も、
レンを知っている。
レンの声が、
少しだけ低くなる。
「……黙れ。」
『可哀想。』
無数の顔が嗤う。
『お前も、
捨てられたのに。』
その瞬間。
レンの周囲から、
黒い霧が噴き出した。
空間が凍る。
床が砕ける。
隊員たちが悲鳴を上げる。
「封印値ゼロに近づきます!」
「まずい!!」
だが。
トワは見てしまった。
レンの顔。
怒っている。
違う。
悲しんでいる。
その時。
ユラがふらつきながら、
トワの肩へ戻ってくる。
『……トワ。』
小さな声。
光が弱い。
消えかけている。
トワは咄嗟に抱き締めた。
「ユラ……!」
『キイテ。』
ユラが震えながら、
トワを見上げる。
『レン、
ヒトリニシチャダメ。』
「……え?」
『レン、
キエチャウ。』
その瞬間。
レンの足元から、
巨大な“無”が広がり始めた。
色が消える。
音が消える。
存在そのものが削れていく。
列車すら、
少しずつ崩壊し始めていた。
だが。
同時に。
地下施設全体も、
一緒に消え始めている。
カナメの顔が青ざめる。
「空木!!
やめろ!!」
レンは答えない。
ただ静かに、
列車を消そうとしている。
自分ごと。
全部。
トワの胸が締め付けられる。
駄目だ。
このままじゃ。
レンが――
その瞬間。
トワの中で、
何かが脈打った。
熱。
光。
魂の奥。
ずっと眠っていた何か。
白い光が、
トワの身体から溢れ始める。
地下空間が静まり返った。
列車の巨大な存在ですら、
動きを止める。
レンが、
初めて驚いた顔で振り返る。
「……神崎?」




