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神籍のトワ  作者: 灯野 しおん
第二章『神籍管理局』

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第十七話

白い着物の少女がすぐ目の前にいた。


 暗闇の中。

 息が触れそうな距離。


 顔は見えない。


 黒い。


 底なしの穴みたいに。


 なのに。


 不思議と怖いだけじゃなかった。


 懐かしい。


 寂しい。


 泣きたくなる。


 そんな感情が、

 トワの胸へ流れ込んでくる。


『……トワ。』


 少女がゆっくり手を伸ばす。


 白い指先。


 冷たい。


 触れられそうになった瞬間――


「触るな!!」


 轟音。


 次の瞬間、

 トワの身体が強く後ろへ引かれた。


 レンだった。


 レンがトワを抱き寄せるように引き離し、

 少女との間へ立つ。


 その瞬間。


 地下空間の色が、

 一気に消えた。


 白黒。


 音も、

 熱も、

 感覚も。


 全部が遠ざかる。


 レンの周囲だけ、

 世界が“無”になる。


 隊員たちが青ざめる。


「まずい……!」


「空木の出力が――」


 警報音が激しく鳴り響く。


『警告。

 空白波動上昇。

 封印値急落――』


 レンの瞳が、

 完全な闇へ変わっていた。


 感情のない目。


 底のない空洞。


 少女が初めて、

 一歩後退する。


 恐れている。


 レンを。


 レンが低く呟いた。


「返せ。」


 瞬間。


 空間が軋んだ。


 少女の身体が、

 ぶわりと黒い粒子へ崩れかける。


 だが。


 少女は消えない。


 代わりに。


『……やっぱり、

 あなたが邪魔するのね。』


 初めて、

 はっきりとした言葉を発した。


 その声に。


 レンの表情が凍る。


 トワは息を呑んだ。


 今。


 少女はレンを“知っている”口ぶりだった。


「……誰。」


 トワの声。


 少女はゆっくり顔を向ける。


 黒い闇の奥。


 一瞬だけ。


 涙を流す少女の顔が見えた気がした。


『まだ、

 思い出してないんだ。』


「え……?」


『可哀想なトワ。』


 その瞬間。


 列車の奥から無数の手が伸びた。


 黒い腕。


 叫び声。


 怨嗟。


『カエセ』

『ノセロ』

『ヨコセ』


 地下空間が崩れ始める。


 壁面が侵食され床が黒く染まっていく。


 隊員たちが次々に吹き飛ばされた。


「結界維持不能!」


「黄泉境界突破します!」


 カナメが歯を食いしばる。


「全員退避――」


 その時。


 ユラが、

 トワの腕の中から飛び出した。


『トワ!!』


 小さな身体が金色の光を放つ。


 眩い。


 暖かい。


 今までより遥かに強い光。


 瞬間。


 地下空間全体へ、

 金色の波紋が広がった。


 黒い侵食が、

 一気に後退する。


 列車内の人影たちが悲鳴を上げた。


『アアアアア!!』


 白い着物の少女も、

 初めて苦しそうに顔を歪める。


『……その子、

 もう生まれてるの。』


 レンが目を見開く。


 カナメも凍りつく。


 だが。


 ユラの光は不安定だった。


 小さな身体が、

 少しずつ透け始めている。


「ユラ!?」


『……ダメ。

 マダ、チイサイ……』


 苦しそうな声。


 トワの胸が締め付けられる。


 その瞬間。


 白い少女が、

 ゆっくり微笑んだ。


『だったら、

 先に迎えに行くね。』


 列車の汽笛が鳴る。


 轟音。


 地下空間が大きく揺れる。


 そして。


 列車の扉の奥。


 真っ暗な車内で。


 “何か巨大なもの”が、

 ゆっくり目を開いた。

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