第十六
『ミツケタ』
無数の声が重なる。
男。
女。
老人。
子供。
列車の中の“全員”がトワを見ていた。
その瞬間。
トワの頭の奥で何かが弾けた。
赤い鳥居。
暗いホーム。
白い着物の少女。
そして。
列車へ乗り込む大量の人々。
夢じゃない。
これは。
記憶――?
「……ぁ……」
視界が揺れる。
足元が崩れそうになる。
レンが咄嗟にトワの腕を掴んだ。
「見るな!!」
だが遅かった。
列車の扉が、
ギギギ……と音を立てて開く。
冷たい風。
腐った水みたいな臭い。
そして。
車内奥から、
一人の少女が降りてくる。
白い着物。
裸足。
長い黒髪。
顔は見えない。
なのに。
トワには分かった。
この存在を、
“知っている”。
少女がゆっくり手を伸ばす。
『トワ』
優しい声だった。
懐かしい声。
母親みたいに。
トワの身体が、
無意識に一歩前へ出る。
「神崎!」
レンが強く腕を引く。
その瞬間。
少女の周囲の空気がぐにゃりと歪んだ。
黒い手。
無数の腕。
車内から這い出してくる。
『ノセテ』
『カエシテ』
『ヒトリハイヤ』
隊員たちが発砲する。
魂粒子弾が地下を照らす。
だが。
列車そのものには効いていない。
カナメが叫ぶ。
「総員後退!!
神崎トワを最優先保護!!」
その時。
少女が、
ゆっくり顔を上げた。
真っ黒だった。
目も。
口も。
顔全部が。
穴みたいな闇。
なのに。
トワだけには、
泣いているように見えた。
『タスケテ』
瞬間。
トワの胸が強く痛む。
苦しい。
悲しい。
放っておけない。
その感情が、
自分のものなのか、
少女のものなのか分からなくなる。
ユラが必死に叫ぶ。
『ダメ!!
アレ、チガウ!!』
だが。
トワの足は止まらない。
一歩。
また一歩。
列車へ近づいてしまう。
レンの顔色が変わった。
「……まずい。」
次の瞬間。
地下全体の照明が一斉に消えた。
暗闇。
悲鳴。
ノイズ。
そして。
トワの耳元で、
誰かが囁く。
『やっと、
見つけた。』
背後。
すぐ後ろ。
振り返った瞬間。
白い着物の少女が、
目の前に立っていた。




