第十三話
「……黄泉駅の案内人。」
カナメの声はわずかに掠れていた。
トワはその反応に息を呑む。
「知ってるの?」
誰もすぐには答えない。
地下空間に重い沈黙だけが落ちる。
やがてカナメが短く告げた。
「ここでは話せません。
移動します。」
隊員たちが周囲を警戒しながら歩き出す。
トワはもう一度だけ鳥居の奥を見た。
暗い通路。
何もいない。
なのに。
“向こう側”から、
視線だけが返ってくる気がした。
レンが小さくため息をつく。
「だから零号線嫌いなんだよ。」
「あなたが嫌うんですね。」
カナメの皮肉。
レンは肩を竦める。
「そりゃ嫌でしょ。
あそこ、
“近すぎる”。」
その言葉に、
トワの胸がざわついた。
近い。
何に?
黄泉に?
死に?
考えた瞬間、
頭の奥が妙に冷える。
ユラがトワの胸元で震えていた。
『……イヤ。
ミラレテル。』
「誰に?」
『ワカラナイ……。』
通路を進む。
地下施設とは思えないほど広い。
無機質な白い廊下。
青白い照明。
壁面を流れる、
魂波モニター。
そこには東京中の光点が表示されていた。
赤。
青。
白。
無数の魂反応。
だが。
所々、
黒く欠けている場所がある。
「……これ。」
トワが立ち止まる。
「黒いところ、
何?」
カナメが視線を向ける。
「空白侵食区域です。」
「こんなにあるの……?」
「現在、
東京都内で確認されている侵食地点は二百七十三。」
トワの顔が青ざめる。
「そんな……。」
「今日だけで十三件増加しました。」
静かな声。
感情を押し殺した声。
トワは理解する。
この組織も、
余裕がない。
レンがモニターを眺めながら、
ぼそりと言う。
「増え方おかしいな。」
「あなたもそう思いますか。」
「うん。
普通じゃない。」
カナメの目が細まる。
「原因に心当たりは?」
「ある。」
即答だった。
だがレンは、
その先を言わない。
代わりに。
ゆっくりトワを見る。
「神崎。」
「……何。」
「君、
最近夢で駅に行った?」
トワの呼吸が止まる。
どうして知っている。
赤い鳥居。
暗いホーム。
電車の音。
毎晩見る夢。
カナメが即座に反応する。
「……夢?」
レンは視線を逸らさない。
「どこまで見てる?」
「……知らない駅。」
トワの声が小さくなる。
「鳥居があって……
誰もいなくて……」
レンの表情が消えた。
冗談っぽさが、
一瞬で消える。
「電車の音は?」
トワはゆっくり頷く。
その瞬間。
カナメが低く息を呑んだ。
「まさか……。」
レンが静かに呟く。
「始発が近い。」




