第十二話
車は再び動き始めた。
ギィ……と、
古い線路を軋ませながら、
地下深くへ進んでいく。
誰も喋らない。
隊員たちの魂の色には、
まだ恐怖が残っていた。
その原因は、
間違いなくレンだ。
レン本人だけが、
本当に何事もなかったみたいに窓を眺めている。
トワは小さく息を飲む。
「……今の、
何だったの。」
「残滓。」
カナメが答えた。
「黄泉へ還れなかった魂です。」
「魂……」
「零号線周辺では時折発生します。」
淡々とした説明。
だがその声にも、
僅かな緊張が混じっていた。
トワは窓の外を見る。
暗い地下。
使われなくなったホーム。
崩れた柱。
そして時折見える、
古い鳥居。
地下鉄なのに。
まるで神社みたいだった。
「どうして地下に鳥居があるの。」
その問いに、
レンが先に答えた。
「境界だから。」
「境界?」
「現世と黄泉の。」
トワの胸がざわつく。
その言葉を聞くたび、
頭の奥で何かが軋む。
夢。
赤い鳥居。
暗い駅。
知らないはずの景色。
なのに、
どこか懐かしい。
ユラが不安そうに震える。
『……チカイ。』
「何が?」
『ヨミ。』
その瞬間。
車がゆっくり停止した。
隊員たちが即座に立ち上がる。
「到着しました。」
カナメの声。
重い扉が開く。
冷たい空気が流れ込んできた。
トワは車外へ出て、
思わず息を呑む。
そこは、
駅だった。
巨大な地下空間。
コンクリートと金属。
だがその中央には、
異様なものがある。
巨大な鳥居。
地下空間に似合わない、
古い朱色の鳥居。
その向こう側だけ、
空気が歪んで見えた。
「……何ここ。」
「神籍管理局東京支部。」
カナメが静かに言う。
「正式には、
東部第一監視局。」
隊員たちが周囲を警戒しながら歩き出す。
トワは呆然と鳥居を見上げた。
その時。
耳元で、
誰かが囁いた。
『トワ』
「っ!」
振り返る。
誰もいない。
だが。
鳥居の奥。
暗い通路の先に、
白い着物の少女が立っていた。
長い黒髪。
顔は見えない。
それでも。
トワには分かった。
さっき、
ホームにいた存在だ。
少女がゆっくり手を伸ばす。
まるで、
“おいで”と言うみたいに。
その瞬間。
レンがトワの腕を掴んだ。
「見るな。」
低い声。
トワがはっとする。
次の瞬間。
少女の姿は消えていた。
まるで最初から存在しなかったみたいに。
レンは鳥居を睨んだまま、
小さく舌打ちする。
「……もう出てきてるのかよ。」
カナメの顔が険しくなる。
「確認したんですか。」
「白い着物の女。」
その瞬間。
周囲の隊員たちの顔色が変わった。
カナメが低く呟く。
「……黄泉駅の案内人。」




