第十一
ホームを歩く人影たちは、
一切こちらを見なかった。
ただ静かに。
無言で。
暗闇の奥へ吸い込まれていく。
トワは息を殺す。
車内の空気が異常なほど冷たい。
ユラが震えながら、
トワの胸元へ潜り込んだ。
『……ヤダ。
アレ、ヤダ。』
「……何なの、
あの人たち。」
カナメが短く答える。
「見るな。」
「え?」
「目を合わせないでください。」
低い声。
隊員たちも全員窓から視線を逸らしていた。
だが。
トワには見えてしまう。
人影たちには魂の色がない。
レンと同じ空白。
でも。
レンとは違う。
もっと薄い。
もっと曖昧で。
存在そのものが崩れかけている。
その時。
ホームを歩いていた一人が、
ぴたりと止まった。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
首だけがこちらを向く。
トワの呼吸が止まる。
顔がない。
黒く塗り潰されている。
なのに。
“目”だけがあった。
暗い穴みたいな目。
次の瞬間。
車内灯が一瞬だけ点滅した。
パッ――
消える。
また点く。
その瞬間。
人影が、
窓のすぐ外に立っていた。
「っ!!」
トワが悲鳴を飲み込む。
ガラス越し。
真っ黒な顔。
貼り付くみたいに、
こちらを見ている。
隊員が反射的に銃を向ける。
「撃つな!」
カナメの怒声。
だが遅かった。
魂粒子銃が発砲される。
青白い閃光。
轟音。
しかし。
弾は人影をすり抜け、
後方の壁へ当たった。
人影は動かない。
その代わり。
ガラスへ、
ゆっくり手を当てた。
べたり。
黒い染みが広がる。
その瞬間。
車内全体へ、
耳鳴りみたいなノイズが走った。
トワの頭へ、
大量の声が流れ込む。
『カエリタイ』
『サムイ』
『ミツケテ』
『ヒトリ』
「ぁ……っ!」
頭を押さえる。
苦しい。
感情が流れ込みすぎる。
涙が勝手に溢れる。
その時。
レンが静かに立ち上がった。
「……うるさい。」
低い声。
空気が凍る。
瞬間。
レンの周囲から、
色が消えた。
完全な無。
車内の紋様が一斉に明滅する。
警報音。
『警告。
魂波異常上昇――』
機械音声。
だがレンは止まらない。
窓へ手を触れる。
その瞬間。
外の人影が、
びくりと震えた。
初めて。
恐怖したみたいに。
レンの目が、
底なしの闇へ変わる。
「失せろ。」
次の瞬間。
ホーム全体の人影が、
一斉に霧みたいに崩れた。
黒い粒子。
風もない地下で、
灰のように舞う。
静寂。
そして。
車内灯が戻る。
エンジンが再起動した。
隊員たちは息を呑んだまま、
レンを見ている。
恐怖。
明確な。
トワは初めて理解する。
神籍管理局ですら、
レンを制御できていない。
レンは何事もなかったように、
再び座席へ戻った。
そして小さく欠伸をする。
「だから嫌なんだよ。
零号線近く。」




