第十話
トンネルの奥は、
異様な静けさだった。
車の走行音だけが、
暗闇へ吸い込まれていく。
トワは窓へ額を寄せた。
古い駅標識。
崩れたホーム。
消えかけた案内板。
まるで、
東京の地下に“捨てられた街”があるみたいだった。
「……ここ、
本当に東京なの。」
カナメは少しだけ間を置き、
静かに答える。
「戦後に封鎖された地下路線群です。」
「なんで封鎖を?」
「公式記録上は老朽化。」
レンが鼻で笑う。
「で、実際は黄泉汚染。」
空気が冷えた。
隊員の一人が、
反射的にレンへ銃口を向ける。
「黙れ。」
「怖。」
レンは全く怯えない。
むしろ退屈そうだった。
トワだけが、
言葉の意味に追いつけない。
「……黄泉って、
死者の国の?」
「神話上は、ね。」
レンが窓の外を見たまま言う。
「でも実際は、
“魂が還る場所”。」
トワの胸がざわつく。
その言葉を聞いた瞬間、
何故か懐かしさを感じた。
知らないはずなのに。
その時。
ユラが小さく震えた。
『……イル。』
「え?」
『ミテル。』
トワは反射的に窓の外を見る。
暗いホーム。
誰もいない。
……はずだった。
一瞬だけ。
古びたベンチに、
白い服の少女が座っているのが見えた。
長い黒髪。
顔は見えない。
だが。
次の瞬間には、
もう消えていた。
「っ……!」
トワが息を呑む。
レンの目だけが、
わずかに細まった。
「見えた?」
「……今、
誰か……」
カナメが即座に振り返る。
「何を見ました。」
「女の子……
駅に……」
隊員たちの魂の色が、
一瞬だけ揺れた。
恐怖。
カナメの声が低くなる。
「停車するな。
そのまま進め。」
運転手が短く返事をする。
だが。
その瞬間。
ゴン――
車体が揺れた。
全員の身体がわずかに傾く。
「……何?」
次の瞬間。
車内灯が消えた。
真っ暗。
ザー……ッというノイズ。
そして。
車が止まる。
沈黙。
重い沈黙。
トワは息を呑む。
「……故障?」
誰も答えない。
隊員たちは即座に武器を構えていた。
カナメが通信機へ触れる。
「状況報告。」
ノイズしか返ってこない。
レンだけが静かだった。
暗闇の中、
窓の外を見ている。
「……来た。」
低い声。
その瞬間。
車窓の向こうを、
大量の人影が通り過ぎた。
ぞろ、ぞろ、ぞろ、と。
ホームを歩いている。
白い人影。
黒い人影。
俯いたまま。
無言で。
トワの全身に鳥肌が立つ。
「……なに、
あれ。」
誰も答えない。
いや。
答えられない。
人影たちは、
生きているように見えなかった。
なのに。
全員が同じ方向へ歩いている。
ホーム奥へ。
暗闇の先へ。
まるで。
“列車”を待つみたいに。




