第十四話
「始発が近い。」
レンのその一言で空気が凍った。
トワだけが意味を理解できない。
「……始発?」
カナメの顔色が変わっていた。
初めて見る明確な動揺。
「空木レン。
それをどこで――」
「見れば分かる。」
レンはモニターへ顎を向ける。
東京全域の魂波マップ。
黒い侵食区域がゆっくり広がっている。
まるで。
地下の“何か”が浮上してきているみたいに。
レンが静かに言った。
「黄泉駅の列車が動き始める。」
トワの背筋に悪寒が走る。
「……電車って、
夢じゃないの?」
「半分夢。
半分本物。」
レンは無表情のまま続けた。
「黄泉駅は、
現世と黄泉の境界線。
本来は閉じてる。」
「……。」
「でも今、
少しずつ開いてる。」
地下施設の空調音だけが響く。
トワは無意識にユラを抱き締めた。
ユラも怯えている。
『……アケチャダメ。』
カナメが鋭い声を出す。
「会議室へ移動します。
ここで話す内容ではない。」
隊員たちが再び周囲を警戒し始める。
その時だった。
館内照明が一瞬ちらついた。
パッ――
暗転。
すぐに戻る。
だが。
その一瞬で。
通路奥に“誰か”が立っていた。
白い着物。
長い黒髪。
俯いた女。
トワの呼吸が止まる。
「……っ!」
瞬きをした瞬間消える。
だが今度はトワだけじゃなかった。
隊員の一人が青ざめる。
「い、今……」
カナメが即座に叫ぶ。
「視線を合わせるな!!」
次の瞬間。
施設全体へ警報が鳴り響いた。
『警告。
第三区画にて黄泉反応を確認。
警告――』
赤い警告灯。
けたたましいサイレン。
モニター上の黒い侵食が一気に拡大する。
隊員たちが慌ただしく動き始めた。
「侵食速度上昇!」
「零号線側です!」
「封印値低下!」
トワは呆然と立ち尽くす。
何が起きているのか、
理解が追いつかない。
だが。
レンだけは静かに通路奥を見ていた。
その目が細まる。
「……早すぎる。」
「空木!」
カナメが叫ぶ。
「あなた、
何を知っているんですか!」
レンは答えない。
代わりに。
ゆっくりトワを見る。
その目はどこか焦っていた。
初めて見る表情。
「神崎。」
「……え?」
「多分もう、
君を隠せない。」
次の瞬間。
施設全体が激しく揺れた。
ゴォン――ッ!!
壁面モニターが砕け散る。
照明が爆ぜる。
悲鳴。
ノイズ。
そして。
地下奥から“電車の音”が響いた。
カン、カン、カン。
踏切みたいな音。
ありえない。
地下なのに。
施設内なのに。
それは確かに列車接近音だった。
ユラが怯えて叫ぶ。
『キタ!!』
レンの顔から完全に笑みが消える。
「……黄泉列車。」




