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 豪華な客間に連れてこられて、セレスティナは狼狽えて辺りを見回した。使用人は「旦那様がお呼びです」としか言わなかったが、掃除以外でこの部屋に入った経験などない。もちろん、父に呼び出された経験も。

 ソレム家の者が揃っているだけでなく、その場にはナイジェルの姿もあった。皆、どことなく険しい顔をしている。

(私を連れ出してくれるという……あの話のことよね……? それとも、やっぱりあれは嘘だったとか、そういう話……?)

 緊張でこくりと喉を鳴らすセレスティナを一瞥し、ナイジェルは三人に言った。

「彼女も家族のはずだが、ずいぶんと身なりが違うようだな?」

「それは……直ちに連れてくるようにとの仰せでしたので……」

 ルイスが弁解するように言う。ごみを運んでいたセレスティナの格好は控えめに言ってもひどいもので、悪臭さえ放っている。髪にべたりと付いた口紅もほとんどそのままだ。拭い切る時間などなかったし、下手に拭こうとして塗り広げてしまった感さえある。

「いつ連れてくるかという問題ではないだろう。お前たちがこういった格好をしている時間などそもそもないだろうに」

「しかし……この者は不出来な娘ですので……」

「出来がどうあれ、子供をここまで貶められる神経が分からん。彼女はファルカンド公爵家に引き取らせてもらう」

「なんですって!? マリーに婚約を申し込むというお話ではありませんの!?」

 叫んだのはイザベルだ。ナイジェルは不愉快そうに眉をひそめた。

「誰がそんなことを言った?」

「でも……そうとしか考えられませんし……」

「考え違いも甚だしい」

 ナイジェルはばっさりと斬り捨てた。マリーとフィリップの顔がこわばるが、彼はそちらを見ることさえせずに続けた。

「話は一つだ。セレスティナ嬢をファルカンド公爵家に引き取る。はい、と言えばいい」

 ルイスは真っ赤になってぶるぶると震え、イザベルは真っ青になって今にも倒れそうな様子だ。

「閣下は……こいつをお選びになるのですか……?」

「どういう意味で選ぶと言っているのかはあえて聞かんが、私は彼女に侍女として来てほしいと思っている。母に付けたいのだ。母も顔の近くに少し痣があるのでな、彼女なら母に寄り添ってくれるのではないかと。こいつ呼ばわりをする親のもとに置いておきたくもないしな」

「……なるほど、そういうお話でしたか。それならば分かりました」

「そうだったのですね。おいたわしいですわ……」

「まったくですな……」

 相槌を打つルイスとイザベルに、ナイジェルは底冷えのするような怒気の籠った視線を向けた。二人がひっと息をのんで身を竦ませる。

 二人から視線を外し、ナイジェルはセレスティナに言った。

「無駄に長居をする気はない。今夜中に出立したいのだが、できるか?」

「……はい」

「支度をする時間をやる。三十分でいいか?」

「必要ありません。すぐ発てます」

「……そうか。では来い」

 セレスティナは頷き、部屋を出ようとするナイジェルの後に続いた。戸惑いと怒りの気配を背後から感じたが、振り返ることはしない。

「なんで!? どうしてあいつが!? 公爵家に行くのは私のはずでしょう!?」

「マリー、落ち着いて。あれは使用人として呼ばれたのよ。可愛いあなたにはきっと、婚約の打診が後からちゃんと来るはずよ」

「母さんの言う通りだよ、姉さん。それにちょうどいいじゃないか。人嫌い公爵なんて呼ばれている人だもの、ちょっと問題があるのかもしれない。さっきの眼光も怖かったし。だからあいつを試しに先に行かせたのだと考えておけばいいよ。死体になって帰ってくるかもしれないけど」

「まあ! フィリップったら。でも、そうね。死体になっても引き取りはしないけどね」

「そうだな。公爵が片付けてくれるなら面倒がなくていい」

 四人が大声で好き勝手に喋り続ける。セレスティナは耳を塞ぎたい気持ちと涙とを堪え、ナイジェルの後を追った。

 そして、セレスティナは外の世界へ一歩を踏み出した。


 夜行性の鳥が鳴き声を響かせ、羽ばたきの音が森の空気を震わせる。空に浮かぶ月は細く、月明かりはあまり地上に届かない。

 その人物は窓を開けて何をするでもなく窓辺にたたずんでいたが、ぴくりと電流が走ったかのように体を震わせた。

「……あの娘が、ソレム家から離れたか。追い出されたか? それとも自らの意思か? ……どちらにせよ、ソレム家の者は分かっていない。自分たちが何を手放してしまったのかを……」

 その人物は独り言つと、口元を笑みの形に歪めた。

「……さて、何も知らないあの娘は、どこまで真実に近づける? 真実を知ったら、何を選択する? ……楽しみなことだ……」

 くつくつと、ひそやかにその人物は笑う。笑い声が夜の闇に溶けていったあと、その場には何も残っていなかった。

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