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 全てを片付け、二人はとうとうファルカンド公爵家の城に戻ってきた。

「お帰りなさい。初めまして、お姉様」

 そう挨拶してはにかんだのは、ナイジェルの八歳離れた妹のクレアだった。セレスティナよりも二つ年下だ。淡い髪色に大人しげな顔立ちでオリヴィアやナイジェルとは美しさの系統が違うが、たいそうな美少女だ。きっと父親似なのだろう。お姉様と呼んでくれた彼女のことを、セレスティナはいっぺんで好きになってしまった。

「初めまして、クレア様。よろしくお願いいたしますね」

「様なんてお付けにならないで。どうぞクレアとお呼びになって」

 少し拗ねた様子で言うのがまた可愛らしい。そうすると頷き、後で一緒にお茶を飲むという約束をするとクレアは上機嫌で戻っていった。

「すごく可愛らしい方ですね。避暑から戻っていらしたのですね」

 彼女を見送ってセレスティナが言うと、ナイジェルは頷いた。

「涼しくなってきたからな。そうか、君とは初対面だったか」

 ちょうど入れ違いでセレスティナはここへ来たので、今日が初対面だ。仲良くなれるといい、と思う。ナイジェルの家族が自分の家族になるということにまだ実感が湧かないのだが、心が温かくなる。


 出会いがあり、別れもあった。

「カレド様、いろいろとありがとうございました」

「こちらこそ。興味深い研究をさせてもらいましたし、閣下にもずいぶん援助していただきました。お二人のことも見届けられましたし、私はそろそろお暇いたします」

「あの、見届けるというのは……」

「ファルカンド公爵家とソレム伯爵家をめぐる呪いについて、閣下が思い人にきちんとお伝えになることを、です。閣下には色々と葛藤があったようですが、セレスティナ様がそれを知らないままでいてはいけませんので。……その分だと、上手くいったようですね」

 カレドはにっこりと笑った。彼は自分たちのことを案じてくれていたのだ。セレスティナはもう一度お礼を言った。

 また来ます、と約束してカレドは帰っていった。あまり遅くなると冬にかかってしまうので、ちょうどいい時期だったのだろう。次に会えるまでに解呪の魔術をさらに勉強しておきたい。呪術師についても色々と伝えて喜ばれたから、彼の方でも研究が進むかもしれない。


 そして問題の、ハロルドについてだ。

 初めてまともに顔を合わせた彼は、最初に見た時とは打って変わってうち萎れた様子だった。いい笑顔をしたオリヴィアが横に立っている。「たっぷりと絞っておいたから」と言っていたが、まさか比喩ではなく絞ったのだろうかと疑いたくなるくらいに萎れていた。

「………………済まなかった」

 それこそ絞り出すような声でハロルドは謝り、セレスティナに深く頭を下げた。

「え、あの、お顔を上げてください!」

 慌てふためくセレスティナに、ハロルドはのろのろと顔を上げた。その目が見開かれる。

「あの、何か……?」

「……いや。祖母ぎみによく似ておられると思ってな……」

「祖母にですか……?」

 そんなことを初めて言われた。そもそも祖母を知る人と話したことも初めてだ。

(そういえばこの方は……二十年以上も前に、ソレム家に依頼にいらしたんだったわ。確か……)

「『女の解呪師など信用ならん』でしょうか……?」

「!? あ、いや、それは言葉の綾というもので……」

 狼狽えるハロルドの耳が赤い。まさか、とセレスティナは思った。ハロルドの妻は若い頃に亡くなっている。当時のフラヴィアを見たハロルドが彼女にのぼせて、勢いのままに言葉が過ぎてしまった……という可能性も、もしかしたらあるのかもしれない。深く突っ込むつもりはないが、なんだか毒気が抜かれてしまった。セレスティナは提案した。

「よろしければ、祖母の形見をお分けします。和解のしるしに受け取っていただけるでしょうか」

「うむ。そういうことなら頂こう」

 ハロルドはそわそわとした様子で口髭をいじった。

 伯爵邸の整理をしたので、祖母のものだった宝飾品や身の回り品などをいくらか持ち帰っている。口紅の壺を差し上げるわけにはいかないし、それはセレスティナにとって大切で思い出深いものなので、小物などを何か見繕って贈ろうと思う。

「お父様、はっきりと仰って。彼女に何を済まないと思っていらっしゃるのか」

 オリヴィアが笑顔で圧力をかけた。オリヴィアは基本的に父を立てているようだが、いざ怒らせると怖いということだろう。力関係が逆転している。ハロルドはもごもごと言った。

「その……娘の痣を治してもらったのに、礼もせず……しかも、そちらにも痣が、それもひどいものがあったと聞いて……年頃の娘さんに、本当に申し訳ないことをしてしまった……」

 ハロルドは悄然としている。怒りのままにソレム伯爵家への呪いをかけるように依頼し、その結果をセレスティナとして初めて目の当たりにしているのだ。人を呪うというのがどういうことか、その恐ろしさの一端をはじめて自覚しているのだろう。セレスティナの以前の姿を知ったら卒倒しているかもしれない。

「謝罪は受け取ります。でも……もっと他に反省すべき点がおありですよ?」

 自分が呪いを依頼したことで娘の痣が定着してしまっていたことや、得体の知れないバルタザールに呪いを依頼したことも大きな問題だ。だが、ここで指摘するのは止めておく。面目もあるだろうし、特に前者は気づいていなかったら大きな衝撃を受けるだろうからだ。彼の寿命が縮まりかねない。反省は充分にしているようだから、これから先のことは彼らの中で解決していってもらえばいい。

 釘を刺したセレスティナに、ハロルドは肩を縮めた。ナイジェルがぼそりと言った。

「……君、母上に影響されすぎていないか……?」

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