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 ソレム伯爵邸を覆っていた瘴気が、四体の魔物に集まっていく。もともと瘴気自体が彼らの呪いと呼応して集まってきたからだろう。それが魔物という形を取り、目の前に現れている。

 セレスティナはまだ呆然としていたが、ナイジェルは素早く立ち直った。

「しっかりしろ! 君はなるべく下がっているんだ! 私が何とかする!」

 ぱちぱちとバルタザールがまた拍手をした。剣呑な目を向けるナイジェルに構わず、彼を称賛する。

「その姿勢は良いな。私を当てにせず、自らを恃むというのは」

「お前のような得体の知れないものを当てになどできるか。いちおう聞くが、あの四体の魔物は伯爵家の四人なんだな? 元に戻す手段はないな?」

「四人であった、と言った方が正しいな。手段については、少なくとも私は知らぬ。心が壊れ、体の形も失って瘴気と混ざり合ったものを元に戻す手段があるなら私が知りたいくらいだ」

「……そうだろうな」

 ナイジェルは応え、油断なく辺りを見回した。魔物を警戒しつつ、魔物に対抗するための武器を探しているのだろう。セレスティナも周りを確認した。

 物置は半壊していたが、バルタザールが立つあたりから後ろは形を残していた。爆風を受けて散乱したものの中に、古い武具があった。

「ナイジェル様! 投げ槍があります! 錆びていますが使えそうでしょうか!?」

「ああ、それはありがたい! この際、攻撃できれば何でもいい!」

 セレスティナは魔物討伐に同行したときのことを思い出した。あの時も、ひたすら攻撃して物量だのみで魔物を弱らせようとしていた。武器の精度はそこまで関係がないのかもしれない。

 自分と血の繋がった者が魔物になってしまったというのに、セレスティナは冷静に武器を見定めている。そんな自分に嫌悪感を覚えたが、それと同時に反発心と諦観もあった。彼らとは、とうとう分かり合えなかった。お別れはあの時に済ませていたのだ。

 ナイジェルは魔物たちから目を離さないように武器を回収し、セレスティナを促した。

「君は先に逃げてくれ。攻撃されたら私が反撃する。四体を相手にするのは難しいから、まずはいったん退いて態勢を整えることを考えるんだ」

「分かりました」

 セレスティナは頷いた。魔物討伐の時は二体の魔物を討伐するために大勢の騎士が動員されていた。一人ひとりの負担を減らし、怪我の危険を最小限に抑えるためだったとはいえ、魔物と戦うのはそれほど大変なことなのだ。

「建物の中を進むのは倒壊の危険があるが、外に出て魔物の横を通り過ぎるよりはましだ。中を通って逃げるのでいいか?」

 はい、とセレスティナは頷いた。城館は一部が吹き飛び、外で四体の魔物がうろついている。物置になっていた部屋は部分的に残っているし、そこから廊下に出ることができる。大部分が残った城館の中を進む方が、隠れる場所のない外を進むよりもましだろう。セレスティナの判断も同じだ。

「冷たいな。私に意見を求めてはくれないのか」

「求めたら法外な対価を請求されそうだ」

 口を挟んだバルタザールに、ナイジェルがすげなく返した。ひどい対応だが、バルタザールはむしろ楽しそうな様子だ。

 セレスティナは城館の内部構造をよく知っている。振り向いてナイジェルの様子を窺いつつ、先導するように逃げようとした。

 しかし、魔物はそうはさせてくれなかった。逃げるセレスティナを追うように、こちらへ一斉に寄ってきたのだ。

「!?」

 セレスティナは硬直した。ナイジェルが舌打ちをし、思い切り振りかぶって投げ槍を投擲した。近づいていた一体に正面から命中し、魔物の動きが鈍る。ナイジェルは立て続けに数本を投げた。

「まずいな……。中から逃げることもできないか。中で襲われたら応戦もしにくいし、下手をしたら生き埋めだ」

 瘴気はそれこそ湯気のようなものなので、建物に詰め込まれると圧力に耐えきれなくなった建物が壊れる。瘴気が凝った魔物が無理やり建物に入り込めばどうなるか、火を見るよりも明らかだ。

「……やるしかないか」

 ナイジェルは呼吸を整えた。風もないのにナイジェルの髪がなびく。彼の体を取り巻くように何かが湧き起こっている。セレスティナが目を見開いて見つめる前で、彼の手には剣が握られていた。長く鋭く、そして透明な、氷の剣だ。

 たん、と地を蹴ってナイジェルが魔物に切りかかった。魔物の腕をかいくぐり、氷の剣で深く切りつける。その部分が瘴気となって崩れ、ナイジェルは顔をしかめながら距離を取った。そしてまた、別のところを斬る。素早い身のこなしと大胆な太刀筋で、ナイジェルはさほど時間もかけずに一体目を葬った。

(ナイジェル様……強い……!)

 そういえば彼は氷の魔術が得意だと聞いていた。実際に見たのは初めてだが、別格の強さだ。オリヴィアが彼に騎士たちの指揮権を譲ろうとしている理由が分かった。

 しかし、彼が一体目を倒したことで事態が悪化した。

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