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「話が違うではないか!」
怒鳴り込んできたのはルイスだった。セレスティナは驚いたが、ナイジェルとバルタザールは平然としている。部屋の外の気配に気づいていたのだろう。バルタザールが平然と答えた。
「何も違わない。お前の依頼は呪いを長子に移すこと。私は呪術師として依頼を受け、そこの娘に呪いを引き受けさせようとした。心を不安定にさせ、誘導し、報酬分の依頼を果たした。完遂できなかったのはそこの男のせいだ。招かれざる者を乱入させたそちらの手落ちだ」
ルイスがぐっと詰まる。自分も招かれざる客としてファルカンド公爵の城に入り込んだ経験があるのと、報酬が少額だったことに心当たりがあるのだろう。
バルタザールは淡々とルイスを追い詰めた。
「そもそも、その娘は生まれた時からお前たちの呪いを肩代わりしていたのだ。健気なことではないか? お前たちは呪いの当事者で、呪術師でもあったのにそれに気づかなかった。気づかずのうのうと暮らしていた。無能と傲慢以外にそれを指す言葉があるか?」
「う……うるさい!」
「娘は稀有な能力を持っていた。娘の素質に気づき、教育を施し、愛情を持って育てれば……お前たちの呪いは娘によって解かれていたであろう。ここまでこじれ、肥大化することなどなく」
「うるさい!!!」
喚くルイスの後ろで、戸がさらに開いた。
「それは本当なの……!?」
幽鬼のような足取りで、イザベルがふらふらと部屋に入ってきた。セレスティナに跪き、哀れっぽく乞う。
「ああ、セレスティナ。許してちょうだい。母が悪かったわ。だからどうかこの呪いを解いて……!」
「ずるいわ、お母様ばかり! お姉様、私のこれも解いて!」
「僕のも! お願いだよ、お姉様!」
イザベルに続いて、マリーとフィリップも部屋に入ってきて懇願する。狭い物置で異様な光景が繰り広げられた。
「なっ……お前たち、自分たちばかり……!」
ルイスが焦った声を上げるが、セレスティナはそれどころではなかった。込み上げてくる気持ち悪さを堪えるのに必死だったからだ。
(……母……お姉様……)
イザベルはセレスティナに、自分を母と呼ぶことを許さなかった。マリーもフィリップも、セレスティナを姉と呼んでくれたことなどなかった。……今の今まで、たった一度も。
「………………嫌」
セレスティナは後ずさった。
家族の役に立ちたい、家族を喜ばせたい、幼い頃はそんな気持ちも持っていた気がするが、とっくに思い出せない。家族の一員として認められたい気持ちはもっと最近まであったはずだが、実際に家族として扱われたときに感じたものは、明確な拒否反応だった。
家族に愛され、大切に育てられ、みんなの呪いを解いて喜ばれる……そんな過去もあり得たのかもしれないが、現実はこれだ。セレスティナは彼らのために解呪をしたいと思えないし、できるとも思えない。他の答えなど、出ようはずもなかった。
拒否したセレスティナに、三人の態度は豹変した。
「なんですって!? いいから言うことを聞きなさい! さっさと呪いを解くのよ! 呪いをぜんぶ持って行ってよ!」
「知ってるわよ、私たちが憎らしいんでしょう!? 本当に、心の中まで汚いのね!」
「嫌なんじゃなくて、できないんだろう? ほら、認めろよ!」
三人が矢継ぎ早に暴言を浴びせる。ルイスも三人を咎めず、一緒になってセレスティナに非難の眼差しを向けている。よろめいたセレスティナを、ナイジェルが支えた。
「お前たち、いい加減に……!」
怒声を上げかけたナイジェルを遮るように、バルタザールが前に出た。ルイスはその彼にも罵声を浴びせた。
「無能はお前だろう! 何もできないなら引っ込んでろ!」
「やれやれ……本当に、呪いについて何も知らないのだな」
バルタザールは嘆息した。
「ハロルドは門外漢だったから、無理解でも仕方のないところはあった。彼は軽く聞き流していたが、お前たちも同じらしいな。解呪師が聞いて呆れる。……呪いは、呪った側にも返るものだ」
「何を訳の分からないことを! 呪っているのはお前だ、違うか!?」
「違う。私は依頼を受けて代行しているのみ。ハロルドは娘のために呪いを依頼し、それゆえ呪いは娘に返った。呪いがこじれ、痣が定着したのだ。お前たちは長子に呪いを引き取らせようと……長子を呪えと私に依頼した。自らのために。その呪いは、各々に返る」
バルタザールの言葉が終わるか終わらないかのうちに、変化は起きた。ソレム伯爵家の四人の体から黒い靄が吹き出し、体を覆っていったのだ。四人は悲鳴を上げたが、変化は止まらない。悲鳴はすぐに嗄れ声になり、人の声ではないものになり……物置が、城館の一角ごと吹き飛んだ。
「!?」
動けずにいるセレスティナを庇って、ナイジェルが床に伏せた。爆風が収まった後でセレスティナがおそるおそる顔を上げると、バルタザールが平然と立っている。爆風の影響を受けた様子もない。ナイジェルとセレスティナは彼の後ろにいたおかげで無事だったようだが、それでもナイジェルがとっさに庇って伏させてくれなかったら怪我をしていたかもしれないし、彼は自分を犠牲にする覚悟でそれをしてくれたのだ。セレスティナは彼に心からのお礼を言い、辺りを見回して……呆然とした。
そこにいたのは、四体の魔物だった。
「人を呪うなら、呪われる覚悟をもしなければならぬ。彼らが長子にかけようとした呪いは強いものであった。それが返り、失敗し、しかも彼らは呪いを身の内に抱えていたのだから……こうなっても何の不思議もないな」
淡々と言うバルタザールの声を遮るように、魔物が吠え声を上げた。




