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 きっかけは、オリヴィアが魔物討伐の際に呪いの傷を受けたことだった。傷は大きかったが、解呪は特に難しいものではなかった。それなりの力量の解呪師であれば苦労せずに解ける程度のものだ。

 オリヴィアの父ハロルドは、解呪をソレム家に依頼した。ちょうどその頃伯爵夫人フラヴィアは解呪師を引退したばかりで、その息子ルイスが初めての依頼を受けた。しかしルイスは見た目と口先ばかりが売りの半人前で、依頼をこなす力量はなかった。フラヴィアは心配し、自分が代わろうと申し出たのだが、それはルイスとハロルドの両方から却下された。ルイスは見栄と意地で、ハロルドは「女の解呪師など信用ならん」という理由で。

 かくして依頼は失敗し、オリヴィアの顔には痣が残ってしまった。それだけならまだ何とかなりそうではあった。――愛娘の顔に痣が残って縁談が破談になったことと、ルイスが失敗を誤魔化そうとしてオリヴィアの顔の痣を馬鹿にしたことに怒り心頭になったハロルドが、呪術師バルタザールを探し出して「ソレム一家を呪え」などという依頼さえしなければ。

 バルタザールは多額の報酬と引き換えに、ソレム一家に呪いをかけた。呪いは当然のごとく、その依頼主の方にも返る。この場合はハロルドではなく、彼が大切にしていたオリヴィア、その呪いの痣だ。かくしてオリヴィアの呪いはこじれ、痣は定着し、その後ルイスがいくら腕のいい解呪師を探し出してきても、オリヴィアの顔の痣を消せる者はいなかった。

 まったく無関係の呪いをでたらめに作ることなどできない。それは道理が通らない。バルタザールがソレム一家にかけた呪いは、ルイスの失敗をそのまま裏返してできた呪いだった。次代が生まれるときに発動する、醜い痣ができる呪いだ。オリヴィアの縁談が破談になり生まれるべき次代が生まれなかったことから、次代が生まれるときに発動する効果が。ルイスがオリヴィアの痣を醜いと嘲笑したことから、醜い痣ができる効果が。ルイスにとってそれは、因果応報の呪いだと言えた。

 しかし彼らは悪運が強かった。第一子セレスティナが、稀有な魔力を持っていたのだ。一家に発動するはずだった呪いはセレスティナがすべて引き受けて生まれ、生まれてからも肩代わりをし続けた。そのおかげで皆が普通の生活を送れていたのに、そのことに誰も気づかず、呪いのせいで髪が白く痣だらけのセレスティナを誰もが蔑んで虐げた。

「そこから先は、お前も知る通りだ。お前は伯爵一家から遠く離れ、呪いを肩代わりさせられなくなった一家に痣が出た。お前は先代の公爵夫人と自分の呪いを、いわば呪いの起点と終点だけを切り離して消滅させた。呪いはソレム伯爵家にとどまり、いっそうこじれて彼らを苛んでいる。そういう状況だ」

「――…………」

 セレスティナはしばらく、何も言えなかった。

 見てきたように語る彼には、この呪いに関わる全てが文字通り「見えている」のだろう。瞳が不思議な光を放っている。ソレム伯爵家とファルカンド公爵家、どちらの内部の者でもないのに状況をすべて正確に把握している彼は、確かにこの呪いをかけた術師だった。

 話をすべて聞けば、フェリシア王女の話の不整合にも気づく。彼女はハロルドからだけ話を聞いていたのだろう、ハロルドにとって都合の悪いことが全て省かれていた。事実の断片を継ぎ接ぎにして解釈を加え、それっぽく語ってみせていたのだ。彼女の話ではソレム家だけが全面的に悪く、セレスティナの家族がセレスティナを殺さなかったのは呪術的な理由があったからで、それは自作自演だった。しかしそれらはすべて違った。それらを前提にした想像も間違っていた。冷静になればその場でもおかしいと気づけたはずだ。それなのに、セレスティナとオリヴィアの痣が繋がっていたことを当てずっぽうで当てられてしまったから信じさせられてしまったのだ。雰囲気に呑まれて深く考えることをしなかった自分が悪かったのだと自省する。

 バルタザールはこれらのことを、善意からセレスティナに教えてくれたのではない。自分の手掛けた呪いが間違って解釈されていたことが面白くなくて教えてくれただけだ。彼はセレスティナの味方というわけではないし、もちろん王女の味方でもナイジェルの味方でもない。ソレム伯爵家にもファルカンド公爵家にも肩入れをしていない。仕掛け人でありながら傍観者として、呪いの行く末を面白がって見守っているだけなのだ。そうでなければ呪いを解いたセレスティナに敵意を向けるはずだが、そうしていないことからも明らかだ。セレスティナは彼のことをなんとなく理解した。

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