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「……セレスティナ。第三王女殿下がお呼びよ」
フェリシアからの呼び出しを伝えたのは、ティルダだった。彼女と久しぶりに会話した気がする。
(ティルダはナイジェル様のことを思っているそうだけど……第三王女殿下のことはどう考えているのだろう……)
セレスティナに取られるのは我慢できないが、相手がフェリシアなら仕方ないと諦めるのだろうか。ティルダが感情表現に乏しいこともあって、彼女が何を考えているのか読み取れない。「分かったわ。ありがとう」とだけ言い、セレスティナは身なりを整えてフェリシアのもとへ向かった。
「来てくれたのね。どうぞ、座って」
城の貴賓室で、フェリシアはセレスティナに向かって微笑みかけた。立場といい、割り当てられた部屋といい、セレスティナよりもよほど次期公爵夫人らしく見える。ふわりと可愛らしい笑みを浮かべているが、その内心は見た目通りではないだろう。
セレスティナが部屋に籠ってから、アンとネリーが噂話として教えてくれたのだが、フェリシアがナイジェルの婚約者であるという話は、フェリシア自身がハロルドに吹き込んだものだという。もちろん、ナイジェルやオリヴィアに許可など得ることなく。それを喜んだハロルドが既成事実のように扱ってしまっているのが今の状況なのだ。
それだけのことならナイジェルやオリヴィアが訂正して終わりなのだが、二人はなぜかハロルドを止められないでいる。そしてハロルドはなぜかソレム家を憎むことを窺わせる発言をしている。セレスティナが知っているのはそこまでだ。
セレスティナが座ると、フェリシアは少し困ったように息をついた。
「あなたのことは調べさせてもらったわ。ソレム伯爵家の『呪い子』。生まれたときから痣だらけで、最近ようやく消えたそうね」
「それが、何か?」
「同時に夫人の痣も消えたということだけど、それって本当に無関係なのかしら? 自作自演ということはないの?」
オリヴィアに痣をつけておいて、後からそれを消して信頼を得たのではないか。その信で以て婚約者になったのではないか。そう言いたいらしい。あまりに迂遠だし、そもそも時系列がおかしいし、話が破綻している。
どうやらフェリシアは、セレスティナを攻撃したいようだ。この国の王女殿下から恋敵認定されるなんて光栄だと思えばいいのだろうか。それとも災難だと嘆くべきなのだろうか。
「オリヴィア様の痣は二十年以上前に魔物につけられたものと伺っています。私が生まれてから二十年も経ちませんし、この痣は生まれつきでしたので関係はないかと」
「それがね、関係がありそうなのよ」
フェリシアはにこりと笑った。
「ハロルド殿がソレム家を憎んでいる理由を知っていて? 愛娘が魔物に傷つけられたと知ったハロルド殿は、まずソレム家に解呪を頼んだそうなの。でも、断られて……娘の痣はずっと残ることになってしまった。オリヴィア様は当時まだ未婚でいらしたから、ハロルド殿はたいそう憤り、悲嘆に暮れたそうよ。これでは婿が取れないと。そのとき進められていた縁談が破談になってしまったと聞いたわ」
「…………!」
「ハロルド殿の悲憤とソレム家の罪咎とを示すように、ソレム家に次に生まれた赤子は生まれつきの痣を持っていた……それがあなたよ、セレスティナ。家族から嫌われた可哀そうな『呪い子』。しかし家族はあなたを嫌ってはいても、死なせることはしなかった。……どうして?」
セレスティナは答えられない。
「それはもしかして、あなたの痣とオリヴィア様のそれが繋がっていたからではないの? 呪いは時として、思いがけない作用をもたらすものだから。それなら別々の痣が同時に消えたことの説明がつくわ」
「……………………」
セレスティナは沈黙した。確かにそれで色々と説明がついてしまう。カレドはなぜか、オリヴィアとセレスティナの痣を同時に消すことを勧めた。セレスティナ自身、二人の呪いが奥底で繋がっていたことを確認している。
ソレム伯爵家がファルカンド公爵家に恩を売ろうと自作自演を仕掛けたという話も説得力がある。あの家族ならそれくらいやりそうだし、セレスティナが殺されていなかった理由がそこにあっても驚かない。なんならセレスティナを殺して痣を消せばオリヴィアの痣が消えるようになっていた、などという悪辣な仕掛けが施されていても納得できてしまう。それなら解呪に失敗する可能性もない。しかし術の失敗かなにかでセレスティナの痣があちらに移ってしまい、その状態では恩を売っている場合ではなくてセレスティナに先に解呪されてしまった……辻褄は合う。
(でも、私は家族の呪いを代わりに受けていて、痣はそのせいで出ていたはず。……まさか、私のこの特異な体質も……作られたものだとでもいうの……!?)
思考がまとまらない。王女の前に引き出され、新しい事実を知らされ、攻撃され、示唆され、混乱させられている。
セレスティナは途方に暮れた。




