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セレスティナは既視感に瞬いた。これと同種のものを……より恐ろしいものを、見た記憶がある。
(オリヴィア様と私自身の呪いを解呪するときに、似たものを見たわ……)
黒々とわだかまっていた呪いの本体は、目の前の薄い瘴気よりもずっと恐ろしかった。魔物の形に凝った瘴気でさえ、あれには及ばない。
しかし、瘴気を目にする人たちの表情には一様に怯えが浮かんでいた。騎士たちは多少の耐性があるようだが、彼らを補佐する周囲の人々は今にも倒れそうな顔色だ。
投げ槍を積んだ荷車をティルダが騎士たちの方へ押していこうとしていたので、セレスティナは自分が代わると申し出た。
「私がやるから、あなたは休んでいて。顔色がよくないわ。無理をしては駄目」
「でも……」
「いいから」
ちらりとオリヴィアに視線を送ると、全体を俯瞰していた彼女が「それでいい」というふうに頷いた。それを受けてティルダは引き下がる。
今回の魔物討伐では、相手は二体だ。広範囲に発生した瘴気が二体の魔物を生み、それぞれが別々に動いている。通常の動物のように行動範囲は広くないものの、危険性は段違いだ。騎士たちは剣を身に帯びているが、まずは弓矢や投げ槍で遠くから攻撃し、弱らせてから剣を使う。あまり近くに武器を最初から置いておくと瘴気の移動によって使えなくなったりするので、そのつど運んでいく必要があるのだ。セレスティナは指示されたところに荷車を置いた。
と、悲鳴が上がった。誰かが魔物に傷つけられたらしい。セレスティナはすぐさま駆け付けた。
一人の騎士が、腕から血を流している。傷口の周りから黒い靄が立ち昇っており、魔物につけられた傷だと一目見ただけで分かる。そこまで深そうな傷には見えないが、血が止まらないとなると話が変わってくる。最悪の場合、失血死もありうる。
「解呪の魔術を、使います」
セレスティナは宣言し、患部から立ち昇る靄に触れた。おそらくは触れなくても解呪は可能だが、セレスティナの場合は特に、触れた方が効率が良い。いったん自分に取り込むからだ。
慣れていないこともあり、自分の中から気力と体力が失われるのがはっきりと分かった。その代わり、騎士の傷口はみるみる状態がよくなっていった。傷口を覆う黒い靄が晴れ、騎士は驚きの声を上げた。
「じくじくとした疼きがなくなりました! 聖女様、ありがとうございます!」
「私は聖女などではありませんが、良かったです。あとは安静になさってください」
「本当にありがとうございます……!」
拝み倒さんばかりの騎士に苦笑し、セレスティナは仕事に戻った。
そしてその回の魔物討伐では、一人の死者も重傷者も出さず、二体ともを早々に仕留めることができたのだった。
「見てたよ、大活躍だったね! 武器もたくさん運んでもらっちゃって助かったよ!」
ネリーがセレスティナに抱き着いた。お酒が入っているせいか、顔が赤い。魔物が発生した村の長がねぎらいの宴を開き、皆を招待してくれたのだ。魔物が目立った被害を出さないうちに片付いたということで、村の人々も大いに喜んでどんちゃん騒ぎになっている。
セレスティナのところにはひっきりなしに人が来ていたが、疲れた顔を見せてしまったからか、今は皆が遠慮してくれてゆっくりと食事を取れるようになった。周りにはネリーと、セレスティナにが解呪を施した騎士たちしかいない。彼らは恩義を感じて護衛のようについていてくれているのだ。先ほどまではオリヴィアもいたのだが、彼女は村長に誘われて飲み比べに行ってしまった。
「何か浮かない顔だけど、大丈夫?」
「ネリーが飲みすぎなだけだと思うけど……。ううん、正直に言うわ。ティルダが心配なの」
具合がよくないと言って宴を欠席しているティルダのことが気にかかる。セレスティナが顔を曇らせると、ネリーも難しい顔になり、声をひそめた。
「……気持ちは分からなくもないわ。ティルダは以前から、その……旦那様のことを慕っていたようだし……」
(やっぱり……。薄々そんな気はしていたけれど……)
ぽっと出の自分がナイジェルに連れて来られ、居座り、あれよあれよという間に婚約者にまでなってしまったのだ。それは不愉快になるだろう。
「彼女には悪いけれど、ナイジェル様のことを諦めることはできないわ……」
「それは当然でしょう。あとはティルダ自身の問題なのだから、他人の問題まで背負うことはないのよ。それにしてもすごかったわね、あなたの魔術! 本当に助かったわ!」
ネリーは自分が怪我をしたわけではないのだが、今までの魔物討伐で歯痒い思いをしてきたらしく、セレスティナの頑張りを手放しで認めてくれている。それに励まされてセレスティナも笑顔になった。
「そうよね、私は私のできることをやるだけだわ。魔物に対峙してくださる騎士の方々のお役にも立ちたいし。よし、私も少し、お酒を頂くわ」
「そうこなくっちゃ!」




