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「どうなんだ?」

 抱きしめた体勢のまま、そんなことを聞くのはずるい。セレスティナはせめてもの抵抗として首を横に振った。自分が王女殿下を相手に、公爵閣下に横恋慕をしている? 冗談にしたってとんでもない。そんなこと、絶対に許されない。

「……強情だな」

 首を横に振るセレスティナに、ナイジェルの声が甘く揶揄いを帯びた。

「正直に言わなかったら、キスするぞ」

「お許しください! 身の程を知らないことを考えてしまいました!」

 即座に認めて謝ったセレスティナに、ナイジェルは唇を落とした。額に軽く口づける。

「!?!?!?」

「正直に言ったご褒美だ。それとも額だけでは物足りないか?」

 何が起こったかを理解して真っ赤になり、目を白黒させるセレスティナにナイジェルは意地悪げな笑みを浮かべた。

「なっ……」

「むしろ物足りないのは私の方だな。私は君が好きだ。正直なところ、妬いてくれたことに感謝したいくらいだ。君の気持を知ることができた」

(それは、私自身だって私の気持ちに気づかなかったから……って、違う!)

 混乱しすぎたせいで、心の中の独り言に突っ込んでしまう。

「……旦那様、それは……本当ですか……?」

「信じられないなら、別の場所にキスしてやろうか」

「結構です!」

「してほしいということか?」

「違います……!」

 恨みがましく見上げるが、見下ろす視線がひどく甘い。そして紛れもなく……熱が籠っていた。

「でも、王女殿下のことは……」

「婚約の話なら、あちら側が蒸し返しただけの話だ。もともと婚約を整えるところまで行かずに立ち消えた話だから、それ以上のことはない。王女殿下が私のことをどう思っておられるか知らないが、私は殿下を、お仕えすべき王族のお一人としか思っていない」

 はっきりとナイジェルは言った。

「婚約の話が出た直後のことだが、殿下は私の母の痣を見て眉をひそめたのだ。それが一般的な反応なのだろうし、殿下を責めるつもりはない。しかし君は違った。母の痣を勲章だと、格好いいと言ってくれたそうだな?」

「確かに申しましたが……それは私自身も痣を持っていたからというだけかもしれなくて……」

「同じ不遇を抱えている他者を蔑む者はごまんといる。むしろいっそう激しく憎む者さえいるし、君はそのことを分かっているはずだ。だが、君はそうではなかった。親身になって母の呪いを解いてくれた」

「……その時は必死でしたが……後から私は……」

「完璧にあろうと思うのは立派だが、そうあれないと自分を責めるのは違う。それは自分に厳しすぎて、自分を追い詰めてしまう。そこまでしなくていいんだ」

 静かに、ナイジェルは言い諭した。その言葉にとうとう涙が零れてしまう。俯いて頷いたセレスティナに、ナイジェルは言った。

「愛している、セレスティナ。どうかこれからの日々を私とともに過ごしてほしい。――婚約者として」

「――はい、旦那様……ナイジェル様。ありがとうございます……!」


(……ひどい目に遭った……)

 ルイスはほうほうのていで逃げ出した。ファルカンド公爵に殺されるかと思った。さすがは「人嫌い公爵」、名前に違わぬ恐ろしさだ。

(なぜか、あいつには優しいようだが……無理もないか。そら恐ろしいほどに美しかったからな。名前を呼ばれていなかったら誰だか分からないところだった……)

 ファルカンド公爵家がソレム伯爵家の遠縁の解呪師を雇っていることは調べて知っていた。その者の身内を名乗り、解呪の魔術を披露したことでなんとか公爵家の門を潜り抜けたはいいが、その後が大変だった。なにしろこの見てくれではパーティ会場に潜り込めない。ひたすら機を窺ってようやく掴んだ機会だったのに、セレスティナを取り逃がしてしまった。自分たちから奪った美しさを身に纏う彼女が憎らしくてならない。

「ちくしょう……どうすればいい? どうすればあいつから全てを取り戻せる……?」

 目を血走らせ、爪を噛んで考える。そんなルイスに、ふと影がさした。雲で月が隠れたのだろうかと何気なく目を上げたルイスは、思わず悲鳴を上げそうになった。いつの間にか人が立っていたのだ。

 月の精かと紛うような、不思議な雰囲気の美しい青年だった。パーティの参加者であるらしく盛装をしている。

(なんでそんな奴が、こんなところに……?)

 ルイスは警戒してじりっと後ずさった。会場から離れた庭の暗がりに、気配もさせずに現れた者を警戒するなという方が無理だ。自分が不法侵入者だという自覚はあるから、ここで叫んで助けを呼んだところで捕まるのは自分だ。逃げ出そうと機を窺うルイスに青年は妖しく微笑んだ。

「お前たちの呪いを、彼女に引き受けさせたくはないか……?」

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