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パーティは盛況だった。セレスティナはあれから三曲立て続けに踊った。パートナーのナイジェルと踊ったからもういいと思ったのだろう、踊りの申し込みが殺到したが、ナイジェルがぜんぶ却下した。セレスティナとしても誰彼かまわず踊りたいとも思わなかったので、乾いた喉を潤したり、食事をしたりする方に集中した。人と話すよりも飲んだり食べたりする方が楽しいと思ってしまうのは、過去の経験のせいだろう。直していかなければ、と思う。
セレスティナの栄養状態は城に来たことで劇的に改善され、今では人並みの量を食べることができるようになっている。痩せ細っていた体も違和感を与えないくらいにはなり、髪も肌も健康を取り戻して痣の消えたセレスティナは伯爵令嬢として申し分のない姿だ。この銀髪も注目の的なのだが、
「……あら?」
オリヴィアが怪訝そうな声を出した。
「あちらの銀髪の方……どなたかしら? あなたが招待なさったの?」
「いや、私にも覚えがないが……少し聞いてこようか」
オリヴィアとウォルターが怪訝そうに話し合っている。セレスティナがそちらを見ると、たしかに長い銀髪の青年がいる。自分以外でこの髪色を見たのは初めてだ。その髪色のために印象が強いだろうが、オリヴィアもウォルターも招待した覚えがないようだ。
線の細い、神秘的な印象の青年だ。と、その彼と目が合った。
(…………!?)
悪意、というのではない。ただ、悪意でも善意でもない……そのどちらも含むような、どちらとも違うような、興味深い動物を観察するかのような視線だ。セレスティナの背筋がぞくりとした。
しかし次の瞬間、青年はいなくなっていた。人混みに紛れてしまったのだろう。オリヴィアもウォルターも、わざわざ探し出してまで身元を確認するつもりはないようだ。確かに格好はきちんとしていたし、騒ぎを起こしそうな雰囲気でもなかった。問題が起こらないならいい、という判断だろう。
気にはなったが、そちらにばかり気を取られている場合ではなかった。ナイジェルに近づく者がいたのだ。
「お久しぶりです、ナイジェル様。セレスティナ様も、初めまして」
小鳥が囀るような可憐な声で挨拶を述べたのは、このハーダル王国の第三王女フェリシアだった。かろうじて王女の名前は知っていても顔を知らなかったセレスティナだが、周りの人々のざわめきからそれと悟った。
(え……王女殿下……!? オリヴィア様、顔が広すぎます……!)
前公爵夫人ともなれば、王族と個人的な親交を持っていてもおかしくはないのだが、それにしてもだ。まさか王女殿下にお目にかかることになるとはまったく思わなかった。波打つ金髪を背に流したフェリシアは十六歳、あどけなさと大人っぽさが同居した美しい姫君だった。セレスティナよりも一つ年下だが、まったく年下だという感じがしない。セレスティナがひたすら扱き使われていた間、彼女は王女として数々の公務をこなして経験を積み、学習を重ねていたのだろうから当然なのだが……ナイジェルと並ぶとしっくりと馴染む似合いの一対だと思ってしまうと、どうにも心が騒いだ。
フェリシアはナイジェルに微笑みかけた。
「お母様のこと、本当におめでとうございます」
「ありがとう存じます」
ナイジェルは丁重に礼を述べた。パーティへの招待を受けた彼女はもちろん、オリヴィアが長年のあいだ痣に悩まされていたことを知っているのだ。オリヴィア自身に悲壮感がなかったのが救いだが、親しい者から見るのもそれはそれでつらいものがあっただろう。
(綺麗な方……。それに、旦那様と仲が良さそう……)
人嫌い公爵、と呼ばれるナイジェルとも楽しそうに話している。以前から親交があったのだろう。
そしてフェリシアは、こんなことを言った。
「お母様のことが解決して、もう私たちの婚約を阻むものはなくなりました。ナイジェル様……お考えいただけますか?」
「!?」
(王女殿下が旦那様と……ご婚約なさる……!?)
セレスティナは目を見開いた。フェリシアは悲しげに目を伏せて説明した。
「私たちの間には婚約の話が持ち上がっていたのですが、オリヴィア様が消えない痣を持っておられたので……話が立ち消えになってしまったのです。呪いを受けた者を王家の身内にするわけにはいかない、と。ですが、それが解決したのですから」
(私が……オリヴィア様の痣を治したから……!?)
解呪を行ったのがセレスティナだということは、公にはしていない。必要がない限り伏せておく方が良いだろうと、オリヴィアとも相談して決めたのだ。フェリシアももちろん、そのことを知らない。……セレスティナが善意で行った行動が、自分の首を絞めている――思い人が自分以外の人と結ばれるお膳立てをしてしまった――ことも、もちろん知らない。
(私……旦那様のことを……!)
こんな状況になって、ようやく自覚した。自分は……ナイジェルのことが好きだ。あの地獄から連れ出してくれて、優しくしてくれて、でもときおり苦悩を覗かせる彼のことが、気になって仕方がない。
好きな人が幸せになれそうなのだから、応援しなければ。オリヴィアの痣を治してよかったと心の底から喜ばなければ。……なのに、それができない。
「……すみません、私……気分が悪くて……失礼いたします……」
真っ青な顔でセレスティナはなんとかそれだけ伝え、追いかけてこようとするナイジェルを制して庭へと逃げた。
そんなセレスティナへ、茂みから手が伸ばされた。




