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 パーティの煌びやかさは、目も眩むほどだった。盛装した貴人たちが笑いさざめき、楽師たちが妙なる音を奏でる。ちらちらと輝くシャンデリアの明かりは星々がきらめくようで、燭台の明かりは地上の家々の温もりを思わせる。シャンデリアや燭台の質も数もソレム伯爵家とは比較にもならない。もちろんそれらを清掃する者にもきちんと配慮が行き届き、かつてのセレスティナのように無理に働かされる人などいなかった。皆が誇りをもって作り上げた舞台が眼前にあった。

 セレスティナ自身は胸がいっぱいで食べられそうにないが、卓にずらりと並ぶ御馳走も素晴らしい。夏の森をイメージしているのだろうか、妖精を思わせるお仕着せに身を包んだ給仕たちが減った料理の皿を取り替え、また客の間を回って銀盆に乗せたお酒を勧めてまわっていた。

 セレスティナがナイジェルを伴って会場に入ると、ひときわ大きな歓声が湧き起こった。驚いて身が竦むが、ナイジェルが握り返してくれる手の力強さに勇気を得て顔を上げる。おそるおそる見回すと、誰一人としてセレスティナに嫌悪の視線を向けている者がいなかった。それどころか、魂を抜かれたように惚けている人が少なからずいた。

(それは、こんな美しい人を伴っているのだもの。当たり前だわ……)

 その人たちはナイジェルに見惚れているのだ。そう思い至って冷静になったのだが、そうやって見惚れている人達の中に男性も少なからず入っていること、彼らの視線がナイジェルではなくこちらに注がれていることに気づいてしまった。とたんに混乱がぶり返しそうになってしまう。

 だが、そんな中でティルダとネリーの姿を見かけた。ティルダはいつものように冷静な表情を保っていたが、少しぎこちないような笑みを向けてくれた。ネリーは「だから言ったでしょう?」とでも言わんばかりの笑顔だ。気心の知れた二人からの励ましに、心が解れる。

 歩みの遅くなったセレスティナを案じて、こちらに視線を向けてくれていたナイジェルに微笑み返す。

 その微笑みに、会場の人々から感嘆の溜息が漏れた。


 ナイジェルはずっとセレスティナの傍から離れず、エスコートに努めてくれた。度数が低くて飲みやすいと勧めてもらった果実酒は美味しくて、緊張がさらに解れる。美味しそうだけどとても食べられないだろうと諦めていた御馳走も、少量ずつだが味わうことができた。二人に話しかけてくる人は多かったが、ナイジェルが慣れた様子で捌いてくれた。

「社交をしようと気負うことはない。君がすべきことは、初めての社交界を楽しむことだけだ。困ったことがあったらぜんぶ私が何とかするから任せてくれていい」

 ナイジェルの言葉に気が楽になる。せっかく素晴らしいパーティを開いていただいたのだから失敗しないようにしないと、可能なら何か価値のあることをしないと、そんなふうに気負っていたことを見透かされていた。オリヴィアとウォルターの夫妻もセレスティナに温かい言葉をかけてくれて、こんな機会を与えてもらった自分は幸運だとしみじみ実感した。

 お話をして、お酒を飲んで、食べ物を楽しんで、だがパーティはそれだけではない。セレスティナはナイジェルに誘われる形で会場の中心に出た。

「一曲、お相手願いたい」

「喜んで」

 主役として、ダンスを披露することは決定事項だ。猛特訓も受けた。その成果を出そうと意気込むセレスティナに、苦笑するようにナイジェルが言った。

「何度も言うが、大切なのは楽しむことだ。何かをしなければいけないなどというわけではない。……だが、これは言葉ではなく教えるべきだな」

 すっと、微妙な力加減でナイジェルに手を引かれる。つられるように足を出すと、自然とステップを踏んでいた。体が覚えていたことが、ナイジェルによって引き出されたのだ。すんなり行かずに間違えることもあったが、これもさりげなくナイジェルがカバーしてくれた。彼の動きは堂々として揺るぎないので、何をしても正しいように見えてしまう。大事なのは説得力なのかもしれないとセレスティナは思った。間違えても堂々としていればいい、あとはナイジェルが何とかしてくれる。そう開き直ってしまえば、だんだんとダンスが楽しくなってきた。一曲分を踊り終える頃にはもう、終わるのが惜しいとさえ思ってしまっていた。

「もう一曲、お相手願えるか?」

「喜んで!」

 セレスティナは笑顔で頷き、新しくステップを踏んだ。

 踊りながら、夢のようだ、と思う。パーティに参加するどころか使用人としてさえまともに会場に入れなかった自分が、あの時よりもずっと立派なパーティの主役として、美貌の「人嫌い公爵」――セレスティナには全くそうは思えないのだが――をパートナーにしてダンスをしている。本当に、信じられない。

 目が合い、ナイジェルが微笑んだ。セレスティナも微笑み返した。

(……すごく……幸せ…………)

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