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 セレスティナの嫌な予感は当たった。オリヴィアはなんと、セレスティナを主役に据えると言い出したのだ。

 言うまでもなくセレスティナは、パーティにまともに参加したことがない。十歳以前は祖母と離れに引きこもっていたし、それ以降は使用人として扱き使われてきた。そもそも顔すら痣だらけだったので、顔をさらして社交の場に出ることができなかった。

「だからこそよ」とオリヴィアは意気込んだ。

「あなたのデビューの場を私たちが提供できるなんて光栄だわ。国王陛下主催の舞踏会ではないから正式なものではないけれど、それの練習だと思えばいいわ。むしろ私的なものだからこそ、ドレスの色も白にこだわらず好きに選べるしね。……え? ダンスに自信がない? あんな短期間で解呪の魔術をものにしたあなたの物覚えは相当なものよ。ダンスくらいどうにでもなるわ」

 笑顔のオリヴィアに押し切られ、セレスティナはダンスの猛特訓を受けることになった。色々なことが学べるのは嬉しいが、そろそろ許容量を超えそうだ。ダンスの練習中に解呪の魔術について脳内で考え始めてしまった自分に気づいたが、そっと記憶に蓋をしてなかったことにした。

 カレドは基礎的なことをセレスティナに教えてくれたが、まだ城に残ってくれている。以前ほどの頻度ではないがセレスティナに魔術を教えてくれ、セレスティナも彼の研究に協力している。帰らなくていいのかとセレスティナが問うと、「見届けてから帰るつもりです」とのことだった。いったい何を見届けるつもりなのだろう。

 パーティには侍女仲間のティルダとネリーも一緒に出ることになった。彼女たちは伯爵令嬢と男爵令嬢という各々の立場があり、セレスティナのように家族関係が壊滅しているわけでもないので、ドレスも自前のものを持っている。特にネリーはダンスが得意らしく、いろいろとアドバイスを貰った。

「ダンスはパートナーがいてこそのものだけど……すごく楽しみね? 私、セレスティナにはちゃんと報われてほしいと思うの。今まで苦労してきた分、これからを楽しまないと。ね?」

 ネリーの意味深な視線、その意味するところを知ったのはパーティの当日だった。


 まだ空に青みの残る夏の宵、満月が昇りはじめた頃に、前公爵夫妻が主催するパーティは始まった。出席者は夫妻と仲の良い者たちが集められており、ティルダとネリーの家族も来ていた。二人ともなかなか会えない家族と楽しそうに談笑している。

 しかしセレスティナには、そんな二人の様子に和んでいる余裕などなかった。会場の手前でかちこちに固まっている。

(どうしよう……! 本当に大丈夫なの……!? どこもおかしいところはない……!?)

 セレスティナに化粧を施してくれたのはティルダとネリーだが、二人はもちろん公爵夫人も太鼓判を押してくれた。だが、普段はマナー程度にしか化粧をしないセレスティナは、自分を美しく装うための化粧というものをした経験がない。こんな自分がそんな大層なことを本当にしていいのか、そんなことが許されるのか、いまだに確信が持てないでいる。生まれてから最近まで、ぱさついた白い髪や痣だらけの体に向けられる奇異と嫌悪の視線に肩を縮こまらせながら生きてきたのだ。自分を見ないでほしいと願うばかりだったのに、化粧なんて。

 セレスティナを狼狽えさせているのは化粧だけではない。ドレスもだ。オリヴィアがあれこれと心を砕いて作らせたドレスは、青のグラデーションが美しい最高級のものだった。痣のない白い首筋から胸元までが上品さを失わない程度に開いている一方、腰から下のスカート部分の布をたっぷりと重ねて優雅な襞ができている。花が逆向きに開いたかのような豪奢なスカート部分が、上半身をより一層ほっそりと際立たせて見せていた。それまでのセレスティナであれば、触れることさえ恐れ多くて遠慮したに違いない美しいドレスだ。それを自分が身に纏っていることが現実とは思えない。

 極めつけは、隣に立つナイジェルだ。盛装した彼は目が潰れるかと思うくらい美しかった。青みを帯びた黒の布地で仕立てられた上着から靴の先まで、何もかもを完璧に着こなしている。そんな彼が青い瞳を柔らかく細めて見つめる先が自分だということに、セレスティナの心臓はもう壊れそうだ。

(オリヴィア様…………!)

 すべてを仕掛けた彼女に、セレスティナは心の中で悲鳴を上げた。セレスティナをパーティの主役に据えるばかりではなく……ナイジェルにエスコートさせるなど、彼女はいったい何を考えているのか。そこまで恩義を感じてくれたのなら光栄だが、それにしたってやりすぎだ。彼の盛装がセレスティナのドレスと調和するように仕立てられていることから察するに、前々から決まっていたことなのだろう。ネリーの視線の意味がようやく分かった。

「……その、旦那様……」

 セレスティナは気後れしながら、かぼそい声で呼びかけた。

「何だ?」

 その口調とは裏腹に、視線は優しい。

「……本当に、よろしいのですか……? ……私のエスコートなんて……」

「なんて、ではない。私から母上にお願いしたのだ。ぜひとも彼女をエスコートさせてほしいと」

「………………!?」

「なんだ、その途方に暮れたような表情は。まったく自覚がないようだが、君は美しい。誰もが君に視線を釘付けにされるだろう」

「………………!?!?」

「行くぞ」

 まだ混乱しているセレスティナの手を取り、ナイジェルはパーティ会場にセレスティナを連れ出した。

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