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(いよいよだわ)

 セレスティナはこくりと喉を鳴らした。部屋の中にはオリヴィアとナイジェル、それにもちろんカレドがいる。今からオリヴィアと自分に解呪の魔術をかけるのだ。

 一回で成功するとも限らないし、失敗してもよほどのことをしでかさない限り大丈夫だから気を楽に、とカレドに言ってもらったが、やはり緊張する。

 カレドはまた、不思議なことを言っていた。オリヴィアの呪いとセレスティナの呪いは同時に解呪すべきだというのだ。セレスティナとしてはまず自分で解呪を試して、問題なければオリヴィアの方も解呪する形にしたかったのだが、それでは余計な手間がかかって成功率も下がるというのだ。

 どうやらオリヴィアの呪いもこじれているらしく、カレドには解けない……少なくともすぐには解けないということだったが、それにしても不思議だ。こじれているものを纏めて処理しようとしたら余計に収拾がつかなくなりそうなものだが。

 首を傾げつつ、カレドの言うことは確かだという信頼があるのでセレスティナは言われた通りに準備をした。充分に睡眠を取り、消化の良い食事を取って体調を整えた。あとはもう、学んだことが出せるかどうかだ。

「……いきます。オリヴィア様、失礼いたします」

 セレスティナは息を整え、右手を伸ばしてオリヴィアの痣に触れた。左手は自分の痣を触る。どこでもいいとカレドは言っていたが、なんとなく似たような場所の方がいいような気がしたので、もうほとんど見えないくらいまで薄れている顔の痣を選んだ。

 目を閉じ、魔力を集中させていく。痣自体ではなく、その奥に潜む呪いそのものに近づいていく。セレスティナの額に汗が浮かび始めた。呼吸も荒くなっていく。オリヴィアとナイジェルが歯痒そうに、それでもセレスティナのことを見守ってくれている気配を感じる。カレドは興奮しているようだが、セレスティナの魔術に触れるときはいつもこうなので、いつも通りだとかえって安心する。

(……。…………。……、見つけた!)

 とりとめのない呪いの気配を、どことも知れない深みに見つけた。意識の奥底で、オリヴィアの呪いとセレスティナの呪いは繋がっていた。同じ根を持つ植物が別々の場所に顔を出したように。

(これを……切ればいいのね?)

 カレドはそう言っていた。呪い全体を相手取るには、今のセレスティナではあまりにも力不足だと。だが、そこまでしなくても、根の途中で切ってしまえば二人の呪いは解けると。その言葉を信じ、魔力をその部分に集中させる。二人の解呪を別々に行うのは効率が悪いとカレドが言っていた意味が分かった。奥底で繋がっていたのだ。今はとりあえず、その意味について深く考えることはしないでおく。

 二本のうち一本だけに魔力を集中させると、かえって効率が悪いようだ。呪いが他方に流れ込んできてしまいそうな感覚があった。セレスティナは二本ともに魔力を当て、根気強く切り離しにかかった。

 そしてついに、その時が訪れた。不意に一本がふつりと切れ、他方も時をおかずに切れたのだ。うごめく触手のように、根本が本体のもとへしゅるしゅると戻っていく。切り離された部分は崩れるようにして掻き消えた。

 セレスティナは目を開いた。足に力が入らず、そのまま崩れ落ちる。その寸前でナイジェルが抱きとめてくれた。彼の腕を掴むようにして、懸命に息を整える。荒い呼吸音に、不意に拍手の音が混ざった。そちらを見るとカレドが満面の笑みで拍手を送っていた。

「大成功です! こじれた呪いを、まさか一回で片づけてしまうなんて予想していませんでした! セレスティナ嬢もオリヴィア様も、これで呪いから解放されました!」

「やっ……た……」

 セレスティナも笑みを返した。呪いを退けられたという確かな感覚がある。大元の呪いの本体は恐ろしすぎて忌避感が強すぎてとても太刀打ちできなかったが、そこに繋がるものを断てた。呪いの痣はもう、現れない。

「……よく、やってくれたわね」

 覆いかぶさるようにそっと、オリヴィアがセレスティナを抱きしめた。自分が汗まみれなことを思い出してセレスティナは慌てたが、オリヴィアは構わず力を込めた。セレスティナもおずおずと抱きしめ返す。年齢も立場もまったく違うのに、祖母に抱きしめられたときと同じ懐かしさを感じた。母性、というものだろうか。セレスティナには久しく縁がなかったものだ。心の奥が温かくなる。

 対抗するように、ナイジェルも力を込めた。彼に体を預けたままの体勢でいることを意識してしまい、急に気恥ずかしくなる。さりげなく身を起こそうとしたが許してくれない。

 カレドがその様子を微笑ましげに見ている。彼に軽く抗議する視線を返しつつ、セレスティナは達成感に身を浸していた。

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