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 さっそくその翌日から、カレドに教わってセレスティナの魔術学習が始まった。

 カレドはあの後でオリヴィアの痣を確認したそうで、完全に謎が解けたとすっきりした顔をしていた。いったい何が分かったのか自分にも教えてほしいと頼んでみたのだが、ナイジェルから口止めされているということで教えてもらえなかった。いつかきちんとセレスティナに説明するとナイジェルが言っていたとのことなので、セレスティナも納得して引き下がった。カレドと話しているときに時折ナイジェルが不可解な反応をしていたので、言いにくいことが何かあるのだろう。

 そのことは置いておいて、セレスティナに今できることは、なるべく早く解呪の魔術を使えるようになることだ。カレドはセレスティナに、まずは体内の魔力を感じることが必要だと教えた。

 セレスティナの場合、すでに無意識のうちに魔力を行使している。今こうしている間も、体が勝手に魔力を使っているのだ。そのことに意識的になり、自分で操作できるようになり、魔術という洗練された形にすれば効率は段違いに上がる。傍にカレドという解呪の魔力を持つ者がいるので、彼に魔力を流してもらったりしながら魔力の把握につとめた。

 ナイジェルが様子を見に来ることもあったのだが、カレドに掌を合わせてもらって魔力を感じ取ろうとしているセレスティナに物言いたげな目を向けていた。だが、セレスティナの気が散るからとカレドに言われ、カレドの真剣な様子を見てなんとか納得した様子になって戻っていった。あれはいったい何だったのだろう。

 もともと少なめだった侍女の仕事はさらに減った。朝にみんなと顔を合わせてお茶を淹れるくらいだ。ティルダもネリーも嫌な顔ひとつせず、頑張ってと励ましてくれた。もともと二人で回していた業務なのだからセレスティナがいなくても大丈夫なのだろうと思うのだが、セレスティナの本格的な業務復帰を待っていると言ってくれて心が温かくなった。オリヴィアのためにも、二人のためにも、魔術学習に熱が入ろうというものだ。

 やがて魔力の流れを感じ取ることができるようになり、座学も始まった。まずは魔力を掴むことが先だからと、それまではそちらに集中していたのだ。セレスティナがまともに勉強できるようになったのは城に来てからだが、十歳以前に祖母が施してくれた教育も役立っている。基礎的な読み書きと計算だけでなく、学習への姿勢も身についていたのだ。それがあったからこそ、ここでの学習が抵抗なく進んだ。

 城で学ばせてもらった語学や数学も使いつつ、解呪の魔術を学んでいく。カレドの魔術に対する造詣は深く、質問すればどんなことでも淀みない答えが返ってきた。彼を雇うのには相当なお金がかかっていそうだと慄いていたのだが、ナイジェルはまったく問題ないと気にも留めていなかった。さすが公爵家、金銭感覚が違う。カレドはセレスティナに対して、自分の研究に協力してくれたら見返りに報酬を下げてもいいと言ってくれたので、学習が一段落して余裕ができたら検討しようかと考えている。彼はソレム伯爵家の遠縁ではあるが、ほとんど他人と変わらないくらいの縁の薄さで、伯爵家には恩も義理もなく、本当にただの遠縁ということらしい。この利害関係のなさも、ナイジェルが彼を指名した理由の一つだろう。一番はもちろん、その有能さだろうが。

 座学が始まったあたりから、セレスティナとオリヴィアの痣が目に見えて薄くなっていった。セレスティナが意図的に何かをしたわけではないのだが、自分の魔力を感じて、自分が何をしているか理解し始めたことで、今までは無意識に行っていた解呪が形になり始めたのだ。

 痣だけでなく、セレスティナは髪の色さえ変わっていった。真っ白でぱさぱさしていたはずの髪が、今では艶のある美しい銀髪になっている。銀髪だとカレドに言われたときは半信半疑だったが、今ではもう見間違いようがない。ぱさぱさしていたのは呪いを引き受けていた負担が大きかったからで、色が現れていなかったのも体の余力がすべて他のことに使われていたからだろうということだった。もちろん十歳以降の栄養不足も拍車をかけていただろうが。

 自分の体内の魔力を感じ取れるようになると、今度はそれを操る訓練が始まった。苦戦しながらも少しずつ上達していっていることが実感できたので、やりがいがあった。自分の魔力の光を目で見ることができたときは感動して思わず泣いてしまったほどだ。

 その頃になると、セレスティナとオリヴィアの痣はごく薄くしか残っていなかった。そんなある日、部屋を整えてくれていたアンからしみじみ言われた。

「お嬢様、どんどんお綺麗になられますね……。改めて拝見するとすごい美人でびっくりします」

 そんなことを言われ、かえってセレスティナの方がびっくりした。

「美人なんて……生まれてこのかた、言われたことがなかったわ……」

「痣が目立ちすぎていたのと、環境のせいで体にご負担がかかっていたからでしょうね。でも、お顔立ちは元から整っていらしたと思いますよ。旦那様に見初められただけありますね」

「見初め……!? いえ、そんなことはないから!」

 セレスティナは慌てて否定した。あの美しい人の目に自分がどう映っているか、考えたくもない。

(でも本当に、旦那様はどうして私を連れ出してくださったのだろう……)

 それがいまだ、謎のままだ。カレドに口止めしていることといい、彼は何かを隠している。

 だからといって彼への恩がなくなるわけでもないので、首を横に振ってセレスティナは気を取り直した。

 明日はついに、解呪の魔術をかける日だ。

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