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「……他者の呪いを……自分に……?」
セレスティナは鸚鵡返しに繰り返した。あまりに突拍子もないことを言われて理解が追い付かない。カレドは勢い込んで話し始めた。
「そうです。それこそが、呪いがこじれていた理由です。状況から考えてご両親の呪いを肩代わりしていただろうことは明らかです。生まれたときからです。成長していくなかで、もしかしたら他の人の呪いも引き受けていたのかもしれませんが」
「私が……そんなことを……?」
「魔力の性質からそのことが読み取れます。解呪の魔力はふつう、呪いを払うことに特化しています。ですがあなたの魔力は特殊で、払うだけでなく移すこともできるようです。他者から自分への一方向に限るようですが」
「そんなことが……可能なのですか……?」
「理論上は。私も実際にそういった魔力を見るのは初めてですが。あなたは無意識のうちに周りの者の呪いを取り込み、しかし解呪の知識がないため充分に払うことができなかったのです。痣が薄くなってきたのは、呪いの元である家族から離れたからでしょう。負担が減ったのです。前公爵夫人の痣が薄くなった理由も同じで、あなたが無意識のうちに引き受け、わずかずつ払っていたからです」
「………………!?」
彼が言っていることは理解できる。だが、自分は本当にそんなことをしていたのだろうか。まるで実感が湧かない。
「私は魔力がないと判断されていたはずですが……」
「きちんと調べなければ、それはそう見えるでしょう。なにせあなたの魔力は呪いを引き受けることと払うことのために使われていたのですから。使われずに溜まって行き場を失った解呪の魔力が体の一部を発光させる……なんて事態は起こりようもありません。すでに魔力がいっぱいいっぱいまで使われていることを読み取らなければ、おざなりな魔力の測定では魔力なしと判定されて終わりです」
「……………………」
呆然とするセレスティナの代わりのようにナイジェルが質問した。
「それが説明のすべてだろうか?」
「細かく話し出せばきりがありませんが、重要なことはお伝えしました。推測も交えて組み立てた仮説なので粗もあるかと思いますが、重要な部分は間違っていないはずです」
「…………」
ナイジェルは考え込んだ。「気になるのですが」とカレドが続けた。
「私の推測が当たっていた場合、彼女の両親に呪いの影響が出始めているはずです。しかも、さらにこじれたものが、です。呪いを引き受けさせていた娘が離れたことで、呪いはそこでさらに変容したはずだからです」
「……心当たりはある。少し前にソレム伯爵に会ったとき、彼は化粧をしていた。顔色が悪かったからそれを隠すためかと思ったが、呪いの痣が現れていたからだと考えると辻褄が合う。伯爵の妻子も出てこなかったし、何かあったのだとは思っていた」
(出てこなかった……!? あのお母様とマリーとフィリップが……!?)
あのパーティのことを思い出す。特に母と妹は、なんとかナイジェルとお近づきになろうとしていた。セレスティナが呼ばれた後の会話を思い返しても、ナイジェルがわざわざ伯爵邸を訪ねたのに出てこないなどということは考えられない。好機とばかり飛びついて自分たちを売り込もうとするはずだ。それがなかったとなると、余程のことがあったのだとしか思えない。
セレスティナの胸中は複雑だった。もしもカレドの推測が正しければ、家族はいまも呪いに苦しんでいることになる。痛みのない痣ではあるが、生活にどれだけ支障が出るか、セレスティナは身をもって知っている。それが彼らに降りかかっていると考えると、同情心と……認めたくないことながら、ほの暗い感情が湧き上がってきた。自分が舐めてきた苦しみの百分の一でも味わうといい、と。
(こんなことを考えては、いけないのに……)
表情を暗くしたセレスティナの手に、ナイジェルの手が重ねられた。長椅子の座面に縫い留めるように、逃げないように、宥めるように、ナイジェルの手が熱を伝えてくる。
「まだ推測に過ぎない。あの碌でもない一家のことを考えるのは後だ。まずは君自身のことを考えるのが先だ。この呪いは、解けうるものなんだな?」
「そう考えます。薄れているのがその証拠かと。健康状態の改善と負担の軽減だけでこれなので、彼女がきちんと解呪の魔術を学べば解ける可能性が高いと思います」
「君に依頼すれば解いてくれるか?」
「ご依頼を受ければもちろん試みますが……解けるとはお約束できません。正直なところ解呪師としての私の腕はそこまで高くありませんので。……ああ、もちろん基礎的なことを教えるぶんには問題ありません。そして、こじれた呪いを外部から解くには全貌の把握が必要です。少なくともソレム伯爵家を訪ねて関係者と会う必要があります」
「……そうか……今の状況では難しそうだな……」
「ですが、彼女自身なら解けるかもしれません。当事者による解呪は体の内側からのものですし、薄れているということは既に解けつつあるということだからです。彼女は無意識のうちにそれを成しているのです」
「……私が……」
(無意識に解呪している……? この痣から……解放される……!?)
セレスティナは逸る気持ちを抑えて問いかけた。
「私が解呪を学べば、オリヴィア様の呪いも解いてさしあげられるでしょうか?」
「可能ではないかと考えています。……ですが、一つだけ気にかかることがあります。前公爵夫人の解呪を試みた解呪師を先ほど閣下が挙げておられましたが、みな優秀な方ばかりなのです。彼らに解けなかったとなると、夫人の呪いもこじれている可能性があるのですが……」
「オリヴィア様はの痣は、魔物による傷が残ったものだそうですが……」
「そうした呪いは単純なもののはずです。時間が経って解けにくくなっただろうことを加味しても、何か引っかかります。閣下、後で夫人の痣を見せていただけるお話ですね?」
「……ああ」
ナイジェルは頷いた。カレドに確認を取る。
「だいたいのところは分かった。母の痣を見てもらった後で、依頼の報酬に色を付けて支払おう。そして、改めて依頼したいのだが……」
「セレスティナ嬢に解呪の魔術を教えること、ですね? それはもう喜んで! こちらからお願いしたいくらいです!」
「……正直だな。足元を見られるぞ? ……まあ、報酬はきちんと支払うが」
苦笑したナイジェルに、「ファルカンド公爵家のご依頼なら大丈夫だと思っていました」とカレドは笑顔を向け、上機嫌にセレスティナに言った。
「あなたの魔力も呪いも特殊すぎて、研究心が掻き立てられますよ。魔力は髪や瞳の輝きにも現れると言われますが、確かに美しい銀髪ですね」
「…………え?」




