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「再確認させていただきたいのですが、ご両親は本当に呪いを受けたことがないのですね?」
「私の知る限り、ありませんが……」
セレスティナは両親の行動すべてを把握していたわけではない。言い淀むと、ナイジェルが横から言った。
「もし受けていたとなると話は変わるんだな?」
「ええ。仮説は立っているのですが、その点だけが引っかかるのです」
「では、受けていたということにして話を進めてくれ」
「いえ、そんな無茶な……」
「無茶でもあるまい。二人の人柄は知っているが、控えめに言っても最低の人間だった。恨みを買って呪われていてもおかしくはない」
「確信ありげに仰いますね……。まあ確かに、呪うものは魔物ばかりに限りません。呪いを研究する者もいますし、呪いを移すことができる者もいるようです。大っぴらにできることではありませんがね。稀ですが、敏感な者が瘴気が濃い場所にいたせいで呪いを受けてしまった例もあります」
セレスティナには初耳だった。普通に考えると呪いとは魔物に由来するものだが、その魔物は瘴気から生まれる。理論上、魔物を介さなくても呪いは生まれうる。
「では、私のこの痣は……魔物由来の呪いではない、と?」
「出所は魔物かもしれませんが、それだけではないと私は考えます。そもそもこの呪いは、こじれているのです」
「こじれている……?」
セレスティナは瞬いた。ナイジェルも心当たりがなさそうな様子で眉をひそめている。
「そうです。ただ魔物が人を傷つけただけの呪いであれば単純ですが、その呪いが例えば別の人に移されると、そこで一回こじれます。そこから他の人に移されたり、重ねがけされたりするとさらにこじれます。形を変えるごとに呪いは複雑になり、解けにくくなるのです」
「それではきりがないではないか」
「きりなどありません。呪いを持つ者が死なない限り」
ナイジェルの言葉に、カレドが淡々と返す。呪いとはそういうものなのだ、とセレスティナはぞっとした。自分が呪われているということの恐ろしさが今さら身に迫ってくる。カレドと視線が合い、セレスティナの背筋が震える。
「あなたの呪いは、すでに二回以上こじれている痕跡が見えます。複雑化しているのです。解くのは容易ではないでしょう。……ですが、薄くなっているのですよね?」
何かを言おうとしたナイジェルを手で制し、カレドはセレスティナに聞いた。セレスティナは確信なく頷く。
「はい、そう見える気がしますが……そもそも私の健康状態が改善されたからというだけのような気もして……」
「なるほど。でも、それだと前公爵夫人の痣が薄くなったことの説明がつかない。もう一度お手を拝借できますか? 今度は掌を上にして」
「はい……」
言われたとおりに掌を上にして、手を長卓の上に乗せる。握手を促すような感じだ。カレドはその上に、掌を下にして自分の手を重ねた。掌が触れ合い、不思議な感覚が走る。カレドが興奮した表情になり、セレスティナの手をがっしりと両手で掴んだ。
「!?」
セレスティナは悲鳴を上げそうになった。ナイジェルが色めき立って立ち上がる。カレドがそんな彼に興奮してまくしたてた。
「公爵! これはすごい、彼女はすごく特殊な魔力を持っています! 魔力が強いだけではない、非常に貴重で特殊な魔力です!」
「…………」
ナイジェルは気を削がれたような表情になった。深く息をつき、つとめて冷静さを取り戻そうとするかのように言う。
「……とりあえず、その手を放してくれ。解呪の魔力があることが確かめられたんだな?」
「そうです!」
カレドが手を放してくれたので、セレスティナは急いで手を引っ込めた。いきなり手を握られたことも、ナイジェルが怒っていることも、ひたすら心臓に悪い。
「閣下のご依頼は、彼女に魔力があるかどうかを確かめることと、彼女と母君の痣が薄くなっているように見えることへの知見を提供すること。そうですね?」
「ああ、その通りだ」
「でしたら私に依頼なさって大正解です! 腕の良い解呪師はたくさんいますが、呪いの構造を読み解く力を持つ者は多くありません。呪いが解けない、ではなぜ解けないのか……そこを専門とするのが私ですので。私でなければ真実には辿りつけずに終わったでしょう!」
その言葉に、ナイジェルがなぜか身を硬くした。覚悟と諦観の気配が伝わってくる。
(依頼してくださったのは旦那様のはずなのに、なにか不都合なことでもあるのかしら……?)
セレスティナは心の中で首を傾げた。様子のおかしいナイジェルとともに、カレドの言葉の続きを待つ。
「セレスティナ嬢。あなたの魔力は、他者の呪いを自分に引き受けることを可能とするのです」




