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 その時にオリヴィアが外出していたのは、自身の伝手を使って解呪師に話をつけるためだったらしい。それからあまり間を置かず、ファルカンド公爵家の城に来客があった。

 カレドと名乗ったその青年は、ソレム家の遠縁で、解呪師なのだという。現場に出るよりも研究を好むそうで、確かに色白で繊弱な雰囲気だった。眼鏡のせいで目立たないが、ソレム家らしい碧眼だ。

 ナイジェルの同席のもとカレドに引き合わされたセレスティナは、学ばせてもらいつつもなかなか使う機会がなかった来客のためのマナーを披露しようとしたが、カレドがいきなり立ち上がったことで全部が吹っ飛んだ。目を見開いてこちらへ足早に近づいてくる彼が怖い。逃げ出す不作法はできず立ちすくむセレスティナと彼との間に、ナイジェルが割って入った。

「彼女に何か?」

 口調に険がある。自然に自分を庇ってくれたナイジェルに、心が少し騒いだ。

 カレドははっとしたように動きを止めた。害意があったわけではなく、無意識の行動だったらしい。萎れるようにして頭を下げた。

「ついつい興奮してしまい……申し訳ありません」

 しかし頭を上げた彼の視線はまたセレスティナに釘付けになっている。嫌悪や嘲弄など悪意のこもった視線ではないが、こちらを見通そうとするかのような視線はなんとも居心地が悪い。黙って佇んでいれば金髪碧眼の優男といった風貌のカレドだが、研究者気質が振舞いにはっきり出ているせいで少し残念な感じがする。

 ナイジェルが咳払いをした。

「とりあえず、掛けていただきたい。落ち着いて話をさせていただきたい」

 はい、とカレドは素直に従った。セレスティナも長卓を挟んで彼の向かい側に座り、ナイジェルもその隣に座る。

 メイドがお茶を各人の前に出して退出すると、カレドはさっそく口を開いた。

「その痣はいつからですか?」

「……生まれたときからと聞いています」

「ご両親にも同じ症状はありますか?」

「ないと思います」

「ご両親は呪いを受けたことがありますか?」

「ないはずです。魔物討伐に行く人たちではなかったので」

「では、………」

 ……といった調子で、カレドは短い問いを次々に重ねた。医師の診察に近いが、何というか、問い詰められている気分だ。

 しかし、嫌な感じはしない。問答はむしろ無機質で、セレスティナを責めるものではなかった。ひたすらに情報を求め、真実に近づこうとしていた。ナイジェルも警戒心を見せつつ問答の邪魔はせず口をつぐんでいた。

 一連の問答が終わるまで、五分もかかっていないだろう。セレスティナは答えていただけだがどっと疲れて、温くなりかけていたお茶を飲み干した。向かい側に座るカレドは興奮冷めやらぬ様子で、自分の書いたメモに目を落としつつぶつぶつ言っている。セレスティナはこっそりと長椅子の背もたれに背中をあずけてもたれかかった。ナイジェルはそのマナー違反に気づいただろうが何も言わず、セレスティナを休ませてくれていた。

「……呪いです」

 カレドは顔を上げ、いきなり言った。会ってからまだほとんど時間が経っていないが、彼の唐突な行動には若干免疫がついてきた気がする。セレスティナは姿勢を整え、問い返した。

「……呪いですか」

「そのはずです。痣に触れることをお許しいただけますか」

「……手でも大丈夫ですか」

「はい。失礼いたします」

 セレスティナは手袋を取り、長卓の上に手を置いた。手の甲に浮き出た痣を、カレドが向こう側から伸ばした指の先で触れ、なぞるように確かめる。ナイジェルがなぜか不愉快そうにする気配が横から伝わってきた。

「やはり、そうです。これは呪いです」

「そうですか……」

 どう反応していいか分からず、セレスティナは曖昧に頷いた。「呪われた子」とさんざん言われてきたから、やっぱりそうだったかと若干の諦めとともに受け入れる。専門家のお墨付きを貰ってしまった。

 だが、そんなセレスティナの反応はお気に召さなかったらしい。カレドは不服そうな顔をして身を乗り出した。

「これが呪いだということは、すなわち解ける可能性があるということです!」

「えっ!?」

 セレスティナは飛び上がりそうになった。カレドの勢いにつられてしまったが、すぐに冷静になった。その可能性は極小のものかもしれない。ナイジェルが慎重に言った。

「私の母にも呪いの痣があるが……解けていない。呪いならば全て解ける可能性があるというのは言い過ぎではないだろうか?」

「言い過ぎではありません。言葉通りです。可能性があります。ファルカンド前公爵夫人の痣ですが、それはきちんと解呪師にお見せになったのですか?」

「見せた。誰に見せても解けないと言われてしまった」

 ナイジェルは言い、解呪師の名前を何人も挙げた。それを聞いたカレドが考え込む。

「よろしければ、そちらも後で私に見せていただきたく。薄くなっているような気がするということでしたね?」

「こちらからお願いしたいところだ。私たちの目には薄くなっているように見えたが、専門家の意見も伺いたい」

「喜んで」

 カレドは答え、再びセレスティナに視線を向けた。

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