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「もともと、いつかは確認しなければと思っていた。忙しさに紛れていて済まなかったが。ちょうどソレム家との話もついたし、痣が薄くなったのなら解呪の能力に関係がある可能性が高いだろうし、きちんと見てもらおう」
「それがいいわ。でも、ソレムの一族と関係のない解呪師っているのかしら? 聞いたことがないけれど。かと言って解呪師以外に頼るわけにもいかないわよね……。呪い自体を取り扱う呪術師の噂を聞いたことがあるけれど、存在自体が眉唾よね」
オリヴィアの言葉に、ナイジェルがわずかに身を硬くした気配が伝わってきた。気のせいだろうかとセレスティナが瞬くうちに、その気配は霧散した。
「……解呪師は多かれ少なかれソレム家と関係があるだろうが、なるべく縁の遠い者を選ぼう。皆が皆、ソレム家と仲が良いわけでもあるまい。探しておく」
「お願いね。私の伝手が必要そうなら言って」
「分かった」
ナイジェルが頷く。自分のことなのに話に入れていなかったセレスティナは機を捉えてお礼を言った。
「あの、ありがとうございます! でも、私はやっぱり能力を持たないとなったら……」
「そうなっても、扱いは何も変わらない。今まで通りというだけだ。座学として解呪の魔術を学びたいならそうしてもいいが。……ところで、ソレム伯爵は日常的に化粧をするのか?」
「え? ……いえ、しないと思いますが。私が気づいていなかっただけかもしれませんが……」
唐突な話題の転換に驚きつつ、思い出して答える。そうか、とナイジェルは短く相槌を打って何やら考え込んでいる。
「……とりあえず調べてみないことには何とも言えないな。魔力があるかどうか、その属性が何かを調べるだけなら判別できる者は多いが、解呪師としての知見も求めたい。時間がかかったら済まないが少し待っていてくれ」
「大丈夫です。どうかよろしくお願いいたします」
セレスティナは頭を下げた。
「……ということがあったの」
セレスティナは自室で、侍女のティルダとネリー、そしてメイドのアンの三人に説明した。オリヴィアが供を連れずに出かけ、留守中のことも言いつけなかったので侍女たちの時間が空いたのだ。すっかりセレスティナの部屋付きのようになったメイドのアンも呼んで、四人でのんびりとおしゃべりをしながらくつろいでいる。ちなみにティルダは部屋に他人が入るのを嫌い、ネリーの部屋は片付いていないので、こういう時は消去法でセレスティナの部屋に集まるようになっている。
「ええ!? 解呪の魔術ですか!? すごいですね……!」
アンは茶菓子をつまみながら感動している。セレスティナが解呪の魔術を扱えるようになるかもしれないことに感動しているのか、それとも茶菓子の美味しさに感動しているのかは定かではない。年少なのにメイドとしてよく働いてくれるアンにはどうしても甘くなってしまい、機会があるたびにお菓子をあげていたら懐かれたようだ。
「まだ可能性の話よ。でも、そうなったらすごいわね」
冷静に言ったのはティルダだ。お茶のカップを優雅に傾けている。伯爵令嬢である彼女は社交界の知識もあり、解呪の能力を継ぐソレム家の特異な立ち位置についても理解している。
「本当、そうなったらいいわよねえ。解呪師って少ないもの。オリヴィア様の魔物討伐に同行するたびに、解呪師の方がいてくださったら安心なのにって思うしね」
相槌を打ったのはネリーだ。彼女は男爵令嬢で、実家にいたときも魔物討伐への同行経験があるそうだ。決して広くない男爵領で、決して広くない交友関係しか持たない状況でどうにか魔物の被害を減らそうとするなら、自分たちで戦うしかなかったらしい。彼女がオリヴィアの侍女になってからは公爵家の力添えもあって状況が改善したそうで、ここにもオリヴィアの目配りが行き届いている。
「解呪師になれるかどうかは分からないけれど、そうでなくてもセレスティナには報われてほしいなあ……。すごく苦労してきたんだし、それなのによく頑張ってくれているし。勉強もすごく進んでいるみたいだけど、あんまり根を詰めないようにね」
「そうね。じっさい私たちも、侍女の仕事が楽になったわ。教える手間がかかるかと思ったらそこまででもないし。むしろ助けられている面もあるしね」
「いえ、そんな……。でも、ありがとうございます」
二人の先輩侍女から褒められてセレスティナははにかんだ。こんな立場を貰えて、つくづく自分は幸運だと思う。ナイジェルには感謝してもしきれない。
「オリヴィア様にも旦那様にもご恩が積み重なっていく一方で……。すごく良くしていただいているだけに、旦那様が『人嫌い公爵』と呼ばれる理由がやっぱりよく分からないのです」
セレスティナが言うと、ティルダがぴくりと反応した。
「旦那様は幼い頃から美しくいらして、しかも公爵家の跡取りということで色々と汚い思惑に巻き込まれたりしたそうよ。外部の人間と必要以上には関わりたがらず、社交を厭っておられるのもそのためだとか。『人嫌い公爵』の呼称については、好都合だからと放っておかれているみたい」
「なるほど……」
彼は彼で色々と苦労してきたらしい。そういえばオリヴィアも幼少期の経験という言葉を使っていた。セレスティナは納得して頷いた。




