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「それはその人たちの問題よ。価値判断に是非はないけれど、子供に負わせるのだけは違うわ。子供にそう思わせてしまうのもね。それは違うのだと言ってくれる大人はいなかったの?」

「いえ、祖母は……祖母だけは言ってくれました。そんなことで人の価値は決まらないのだと。……正直なところ、お題目だと思っていました」

 こんなふうに生まれてしまったから、セレスティナは離れに隔離されていた。家族として扱ってもらえず、扱き使われ続けてきた。セレスティナの価値は下がるところまで下がっていた。

 オリヴィアは溜息をついた。

「おばあ様の仰ったことは正しいわ。でも、それが正しいと思える心が充分に育っていなければ意味がないわね。それはこれから育てていくしかないけれど……一つだけ覚えておいて。悪意を持って見てくる者に、屈しては絶対に駄目。それは自分への冒涜だから。そんな悪者ではなく自分を大切になさい」

「……はい。はい……」

 セレスティナは涙を堪えて頷いた。実際にそうやって強く生きてきたオリヴィアの言葉は心に沁みる。痣の程度はセレスティナよりもずっと軽い彼女だが、公爵家の令嬢として、そして夫人として、セレスティナとは比較にならないほどの量の悪意にさらされてきたのだろうから。そんな彼女が、祖母と同じようにセレスティナを諭してくれている。祖母がいなくなったら自分にはもう味方などできないと思っていたのに。

「分かるわよ、向こうに一理あるのではないか、悪いのは自分なのではないか……心が弱ってそう思ってしまうこともあるわよね。そういう時のためにも、自分を肯定してくれる人が傍にいると助けになるわ。私には夫がいるけれど……あなたにとってのナイジェルがそれなの?」

 話が元に戻ってきてしまった。セレスティナは首を強く横に振った。

「お話を伺っても、旦那様にとっての私がそれだとはとても思えません。私がこちらに参ったのは、痣を持つ私なら大奥様に……その、寄り添えるのではないかと言われて……」

「寄り添ってくれる人を際限なく増やしたいなんて思わないわよ。私がそういう侍女を必要としているように見える?」

「見えません……」

「だからそれは、あの子の方便ね。あなたを連れてきた目的は別にあるはず。私には何も言わなかったけれど」

「そうだと思います。私は実家で、その……冷遇されていましたから。閣下は私のことを憐れんでくださったのだと思います」

「……それもいまいち納得できないけどね……」

 オリヴィアは腕を組んで首を傾げた。

「あの子が優しくないとは言わないけれど、博愛精神に溢れているとも言い難いわ。むしろ人との関わりを疎んじて、必要以上に深入りすることは避けているし。それは幼少期の経験と、教育の影響も大きそうだけどね。だからあなたへの肩入れが不自然に思えるのよ」

 オリヴィアの言葉の大部分は納得できる。だが、

「教育、ですか……?」

「ええ。私の父があの子に当主としての心構えを説いて、社交の場にも連れ出していたのだけどね。父はちょっと偏屈で昔気質なところがあるから……あの子も影響を受けたと思うのよ」

「そうでしょうか……」

 ナイジェルに昔気質なところは、少なくとも今まで見た範囲では感じられなかったと思う。偏屈かどうかについての感想は差し控えておくが。

「まあ、そのあたりのことは分からないならこのままでいいわ。あの子の意図がどうあれ、私は理由なくあなたを解雇するつもりはないから安心してね。お話はこれでおしまい。これからよろしくね、セレスティナ」

「はい、大奥様」

「よかったら名前で呼んで。あまり堅苦しいのは好きではないの」

「分かりました、オリヴィア様」

 返事をしながらセレスティナは、尊敬できる人に侍女として仕えられる喜びを感じていた。


 そしてセレスティナの侍女としての日々が始まった。オリヴィアはおおむねいつも通りに動き、二人の侍女が普段の用をこなしつつ、手の空いた方がセレスティナに教えるという形だ。二人とも手が空かない時は見て学ぶことになっている。できる範囲で手伝いをしながらセレスティナは学んでいった。

 栗色の髪のティルダは冷静な仕事ぶりで、赤毛のネリーはおっとりと穏やかだ。どちらも侍女として有能で、セレスティナを差別することもしない。先輩として頼れる二人だ。

 しばらくはそうして働いていたのだが、やがて問題が出てきた。セレスティナは痣が目立つせいで人前に出にくいのだ。服で隠れる部分はいいのだが、顔はどうしようもない。オリヴィアのようにスカーフで一部だけ隠せば済む程度のものでもない。オリヴィアは前公爵夫人として人を招いたり出かけたりすることも多いのだが、セレスティナはそれに同伴できない。城の中の人は気にしなくても、対外的に問題になりうる。

 そしてもう一つの問題が、セレスティナに知識が足りないことだ。秘書的な役割を求められるときに、かろうじて字は知っていても、難しい用語が分からない。日常会話に出てこないような語彙になるとお手上げだ。

 そこで、オリヴィアがセレスティナに言い渡した。

「しばらく、侍女の仕事を減らします」

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