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 スカーフの下に隠されていたのは、顎の近くから首筋まで続く大きな痣だった。魔物にひどく傷つけられたことが窺え、痛々しく見える。しかし当の本人はさっぱりしたものだった。

「二十年五年くらい前につけられたものなのだけど、別に痛くもないから不自由していないわ。私は気にしないし、ありがたいことに理解のある夫も見つけられたからいいのだけど、父が気にするから隠しているの。父は昔気質の人間だからね……」

 仕方ない、と軽くため息をつく。

(なるほど、先々代様がそういった方なのね。納得したわ……)

 先々代当主の一人娘であるオリヴィアは、本来なら女公爵として公爵家を継ぐことのできる立場にあった。それをしなかったのは父親が許さなかったからだろう。だから入り婿である夫が公爵位を継いだのだ。

「それでも私は大貴族の一人娘だったから、武術も修めたわ。魔物討伐に参加することも厭わない。ティルダとネリーにはそこまで求めていないけれど、ついてきてもらって補佐を頼むこともある。戦えということではなくて、用意を手伝ってもらったりね。あなたは出来そう?」

「え……と、まず私は、魔物自体を見たことがなくて。出来ることがあるなら何でもやりたいのですが、足手まといになってしまうかもと……」

「それは気にしなくていいわ。最初は誰でも出来ないものだから。試してもらって、無理そうなら別の仕事を任せるだけよ。言いたくないことなら言わなくていいのだけど、あなた、魔物に襲われたわけではないの?」

 オリヴィアはずいぶん直接的ではっきりした物言いをする、とセレスティナは思った。だが嫌な感じはしない。そこに悪意がないからだろう。痣だらけのセレスティナを見ても嫌な顔ひとつしなかった。自身も痣を持っているから当然だと思いそうになるが、そんな単純なものではないことは分かっている。同族嫌悪というものもあるし、程度の差で自分を優位に置きたがる心理もある。

「生まれつきこうだったと聞いています」

 ティルダとネリーは少し驚いたようだったが、オリヴィアは「そうなのね」と話を終わらせた。

「脅かすような話をしてしまったけれど、魔物討伐はそこまで頻繁にするわけではないし、普段はこの城の中で働いてもらうわ。なんなら私が二人を連れて魔獣討伐に出向いているときに、ある程度ここで私の代わりになってくれたりすると助かる。まずはこの城に慣れてもらうところからね」

 オリヴィアは言うと、ティルダとネリーに命じた。

「必要になったら呼ぶから、執務室で作業していてくれるかしら。ちょっと二人で話がしたいから」

 かしこまりました、と二人は頭を下げて部屋を出て行った。その場にオリヴィアとセレスティナだけが残される。オリヴィアは壁際のワゴンを指して言った。

「そこの水差しのお水はいつでも自由に飲んでいいわ。水分補給は大事だからね。決まった時間に取り替えてもらうのだけど、四人で使ったら減りが早くなるだろうし、そのあたりはあの二人と調節していって」

 分かりました、とセレスティナは頷いた。視線で促されたので、グラスに水を注いで持っていく。言われなくてもグラスを二つ用意したことに、オリヴィアは満足そうに頷いた。向かいの席にセレスティナを座らせ、話をする姿勢になる。

「それであなた、ナイジェルとはどういう関係なの?」

 水を吹き出すかと思った。ごほごほと咳き込むセレスティナに、オリヴィアは面白がる視線を向けた。

「驚いたわよ、あの子が私に新しい侍女をつけたいなんていきなり言い出したから。行儀見習いの子を引き受けることはやぶさかではないけれど、私は別に新しい侍女が欲しいなんて言っていないのに。もしかしてお嫁さん候補なのかしら、とも思ったわ」

「…………!?!?」

 ぶんぶんと首を横に振るセレスティナに、オリヴィアは少し苦笑した。

「そこまで素直に反応しなくていいわよ。貴族女性の振舞い方をおいおい教えていってあげるわね。それで、最初の質問に戻るのだけど」

「関係……と仰いますが、何もないとしか申し上げられません。隠しているわけではなく、本当に初対面だったのです。ファルカンド公爵家に来るかと言ってくださって……侍女として来てほしいと思っていると……」

「一目惚れかしら」

「まさか!? こんなおぞましい外見なのに!」

「おぞましい? 私を見てそう言える?」

「大奥様は違います! 魔物と戦ってできた痣は勲章だし、格好いいと思います! でも、私のこれは生まれつきで……一族の誰にも似ず、髪も真っ白で……私がこんなふうに生まれてしまったから、家族も壊れかけてしまったんです」

 亀裂が入った両親の仲を修復したのは、妹のマリーだった。弟のフィリップも生まれたことで一家の結びつきはいっそう強固になった。……セレスティナを疎外することで。

 しかしオリヴィアはばっさり切り捨てた。

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