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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第五章 神徒侵攻編

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59話 国王の日記

思った以上に多忙で更新が止まってしまっていました。

夏休みに入ったためガンガン執筆したいと思っています。


またペースが崩れる時期もあるかと思いますが、どうかこれからも末永くご愛読ください。




 カチッ。

 全ての時が────、停止した。


 天使族も、死神も、駆け出した市川も、アオも。

 そして、アオの首筋に触れるか触れないかの際に迫った大鎌も。


 それらは屋敷が破壊された轟音と、咆哮と、腐食されひび割れる鎌の音と共に動き出す。



「っ───はぁ!? いや何、何それ!?」



 珍しく戸惑ったアオが発狂している。

 壁を突き破って菅沢邸に侵入してきたのは、巨大な竜。その背に跨る濁りのない純白と、恍惚に歪んだ黒い羽。

 そして、異様な薬品臭を漂わせる白衣の男。


「天才科学者のぉ、俺、降臨ー」


 漆原は通常運転。

 短剣で天使を斬りつけながら竜の背を滑り降りる兼得と、黒い霧を纏いアオの元へ駆け込むフォラウス。


「碧さん!! ご無事で何より!!」


「んふふふふ!! 黙れ天使の末裔。アイオニオス様、今ここに忠実なる僕フォラウスが参上致しまし───」


「ねぇねぇねぇ、すごぃ疲弊してんじゃん市川ぁ。珍しぃー」


「おい、私とアイオニオス様との馴れ合いを遮るとはなァ? 殺すぞ、このイカれ人間」



 絶え間ない追撃をいなしながら、フォラウスは喧嘩腰に漆原に詰め寄り、漆原もまた攻撃を避けながらギャンギャンと騒ぎ立てている。

 突如現れた巨大な竜は、その二人に怯えている様子だった。

 きっとこの竜も仲間なのだろう、と軽く解釈し、アオは冷静に現場を分析し始める。


 先程まで緊迫していたこの状況が一転、確実にアオ達の優勢を示していた。

 確実に仕留められたはずの彼女を逃し、死神には焦りと怒りの色が目に取れる。



「……Τι θέλεις; Μην με ενοχλείς.」



 異言語を呟く死神。それに対し、


「なななな何ですか、あれ!? 何か話してません!? 怖!!」


 と怯えている兼得。感覚が少しズレている。

 苦笑するアオは再び改めて兼得を目視し、驚愕した。

 それは彼が凄まじい速度で天使を葬っていたから──── だけではない。


 彼は、見慣れぬ姿に変貌していたのだ。背には白い羽を生やし、赤髪の頭に美しい光の輪。

 兼得は天使ηρεμία(イレミア)の末裔。アオ、つまり魔王アイオニオスとの戦闘時、神王アポロンに一時的に体を支配され、その力が覚醒したのだった。



「その力……自分で使えるようになったんだ?」



 驚きを押し殺し、確認するように問いかけるアオ。

 彼が天使族の力を使い、魔力と身体能力を向上できるかどうかで戦力差が大きく変わるのだから。

 アオと目が合い、反射的に照れた兼得が答える。


「あっいえ!! 僕もよくわからないんですけど……。今まで出来なかったのが先程突然、この姿で戦えると確信したんです! ……ぼ、僕も、これでアオさんの役に立てますね!!」


「君は元々役に立っていたと思うよ?」


「……そっ、それは本当ですか!!」

「あァ!! (ワタクシ)はッ!?」



 どうやら有益な情報は手に入りそうに無かった。(ワタクシ)はどうなのですか!? と頬を染めながら叫ぶうるさい黒い羽は無視をして、敵に向き直る。



───大元を叩かなければ、天使達は増え続ける。



 まずは目の前の死神を討伐、そして神王アポロンの居場所を突き止めるのが最優先である。



「みんな、来てくれて助かったよ。とりあえずこいつら……片付けようか」



 死神が、大鎌を構え直した。




*****




 長野県の山奥にある、ルクシス天媒会の拠点。


 千草の昔の仲間である“アキ“と名乗る教祖に千草が連れ去られた。

 残された神月と時薪だったが、神月はより内部の人間へと接触を図るため隠し通路へ向かい、時薪は入信希望者の列で潜入を続けていた。


 途中、人数を確かめている信者に出会ったが、口から出まかせで難なく誤魔化す。


(それにしても、この入信希望者達は。洗脳を受けているとでもいうのか……?)


 長らく潜入や隠蔽任務に携わり、人間観察に長けた隊長だからこそ。

 彼らの呼吸、心拍、目の動き、筋肉の強張りからその先の感情まで、時薪が本気で観察を行えば、ほぼ全て読み取ることができる。


 なのに、ここにいるものは皆不自然な程に一様で、変わり映えがなく、人間らしい変化が見受けられない。

 この施設を見る限り、ざっと3万平方メートル程度。大きくはあるが、王女を狙うだけの力は足りないように思えた。


 

(この設計に、この常駐人数。先程は魔力で読み取ったが、隠し部屋の正確な位置は───)



*****



「これか」


 時薪と別れた後、魔力を辿って部屋に到着した神月は、何もない壁に魔力を込めた。

 トラップとして突如現れた数式や魔法陣を全てアナログ、暗算で解き切り、扉を出現させることに成功していたのだ。


(時薪隊長が列に残っていてくれて助かった。ここは一人ずつしか入れないようになってんな)


 警戒を怠らず、恐る恐るといった調子で隠し部屋の扉を開いた。そこには。


「……!! お前、抜け出して来られたのか。さすが………じゃない、なんだその怪我……お前連れ去られた場所で何があった? 界」



 部屋は、書斎だった。

 その中心で血だらけとなり倒れ込んでいる千草は、息を切らしながらも悔やむように目を逸らす。


「ごめん……俺、大した情報も持たず、逃げることしかできなかった」


「あんな化け物から逃げ出しただけで上等だよ。ま、オレはそいつに一発食らわせてから無傷で逃げるけど」

「うぜぇ……っ」


 片方の口端を上げて煽る神月に、苦い表情をする千草。軽口で少しは気分が晴れたのか、真っ直ぐと彼の目を見て状況を伝える。



「……まず、予想通りアレは“アキ“なんかじゃねえ。どうも体を違うやつが操ってるみたいだった。アポロンとかいう神の関係者だろうな」


「だが彼は人間の魔力のままだった。操っていたとなると少しは残穢が染み付いているもんだけど……余程隠すのが上手いって事か」


「ああ」


 千草は、神月の意見に軽く頷いて言葉を続ける。


「…………それと、妙な技を使いやがったんだ」


「妙な技?」


 怪訝な表情をした神月に目線を合わせる。


「その技で魔力回路が乱されて、魔法がまともに使えなかったんだ。だから俺は、別の内部魔力回路を使う個人魔法で、てめぇらの魔力の座標を特定して逃げたってわけなんだが……」


「つまり、それも邪魔されて、この部屋につっぷしてるっつーわけか」


「言い方ひどくね」


 千草の体力も戻ってきたのか、やはり通常通りに軽口を言い合う二人。

 そんな時、施設全体が大きく揺れた。同時に、異様な気配。


 まるで脳を、心臓を鷲掴みにされたような恐怖が二人を襲う。



「………ッ!? 《シールド》!!!」



 魔力をほとんど使い切り、血も流している千草を庇うかのように、神月が反射的に《シールド》を展開。倒れてくる本棚や天井の壁紙。それと、敏感に感じるビリビリとした危険な圧から身を守った。


 驚いたのは束の間、その揺れはすぐに止んだ。

 外で何やら大きな音が響き始めている。



「何だってんだ一体…………、界、怪我は? 大丈夫か?」



「…………界?」




 千草は落ちてきた一冊の本から目を離さない。

 その瞳は見開き、信じられないようなものを見た顔。


 何があったのか気になり神月も横から覗き込むが、千草は本を手から落とし、ふらついたまま立ち上がって歩き始めた。突然の雰囲気の変化に焦る神月。



「なぁ………どうしたってんだよ。その体でどこに行くつもりだ!?!? っ、止まりやがれ!!」



 神月が手首を掴んで制止を試みるが、千草はそれを振り払って睨みつけた。

 その瞳は、どこか寂しげでありながら───、憎悪が浮かんでいた。



「………ごめん、神月。俺、もう一回アキのところ行ってさ。 ぶっ殺してくるわ」



「は? 待て、だからその体じゃ……!!!」



 破裂音と共に空間から千草が消える。

 彼の固有魔法《歪界転位》だろうが、相変わらず魔力の回復が早すぎる。


「マジで何だってんだ……」


 呆れながらも、彼ならまぁ無事であろう、と楽観視して先程の本に目を落とす。



「こりゃ……国王の、日記か?」



 直筆の日記だった。なんて事ないものだ。

 だが、その内容が問題であった。





------------------------


~~。



2238年11月11日



子供が産まれた。名前は界。


以前検査した時には、界は人間に耐えられない程の魔力を包容していたらしい。

だが、赤子が耐え得る程度に留めて、余りは後から生まれる2人の子供に分かれたそうだ。

…………これではアポロン様の器にする事はできない。


日富の介護も、兄様に任せたから完璧だったはずだ。

それなのに、この出来では全く意味がない。だがこれで、日富をこの家に居させる意味はなくなった。


千草の姓を名乗らせ、下民の街へ送ってやった。

有名な家系だとはいえ、元々病弱な者を妻にするつもりもなかったからな。

これで家が有効に使えるだろうさ。


兄様には叱られたが、知った事ではない。

私には天原家の友がいるのだから、兄様を恐れる必要もないのだ。


友人、天原家の長男によると献上する体は女の方が良いらしい。

少し手間だが()()()()なら、そこらに余るほどいるはずだ。

今回は失敗したが次は必ず、アポロン様に献上できる器を用意するとしよう。



2238年11月××日〜


------------------------





 さすがの彼も絶句する。

 神月も千草の魔力量が、ただの下民の貧相な子供のモノではないと考えていたが。



「まさか……王族だったなんて」



 それに、これを知った千草の表情。

 たしか千草は、貴族……それも神月の兄である輝夜に、妹達を虐められていたはずだ。

 なのにその自分自身が元々嫌悪していた貴族であり、アポロンの器として作られようとしていた。

 そして、アポロンの化身と想定されるアキが、ここにいる。



 仲間想いで正義感の強い千草が、飛び出さないわけがない。




(戦争孤児、という単語も腑に落ちない。


今の国王に妃は存在しないはずだ。

15年前に亡くなられたと噂されたお妃様は、天空ターミナルを追放された界の母親、永久日富の事だろうから。死んだ、世間に怪しまれないための嘘だったのだろう。


そうなると、今、アオ達が護衛しているらしい王女は、実は国王の娘ではなく、アポロンに献上するためだけに育てられた、戦争孤児なのではないだろうか。


その事が他人にバレてしまっては都合が悪いから、わざわざ自分が信仰しているはずの宗教を悪役として立て、自分に罪がかからないように国防軍に護衛の依頼を出した…………。


…………全て憶測だが、辻褄は合ってしまう。一つ気になるのは、教祖のアキが既に何者かに乗っ取られている、という界の言葉だけど。


国王すらも弄ばれているような…………そうだとしたら、気味が悪い。)





 神月がここまで推理をし、疑問を感じた理由。

 千草が行動を起こすための理由が、揃いすぎているという点だ。


 そもそも、大量の本の中からこの日記が落ちてきて、丁度このページが開いた。




 そんな偶然、あるはずがない。




「十中八九、輝夜かアポロンの罠だが………とにかく、界のヤツを追わなきゃ、やばい事になりそうだ」









少しでも面白いと感じて頂けたら、ブクマ感想評価宜しくお願いいたします。

首を長ーーーーーーくしてお待ちしています。



次回、60話「血飢と喰魔」。

死神と相対するアオ達の行く末は如何に。


一週間以内には更新予定!!


他にも連載、短編小説、詩を投稿しています。

お時間あれば是非。

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