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【Aルート完結】バドミントン ~2人の神童~【Bルート連載中】  作者: ルーファス
Bルート第1章:新生・稲北高校バドミントン部編
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第97話-B:今更遅いかもしれないけどさ

 お待たせしました。いよいよBルート開始です。

 0-18という絶望的な状況から、土壇場で神衣に覚醒して18連続ポイントを奪い、とうとう同点に追いつくという、とんでもないミラクルを起こしてみせた隼人。

 そんな隼人に追い詰められ、絶望の表情になってしまっている彩花。

 そして隼人を何としてでもスカウトしようと、日本や欧米諸国のプロチームの関係者たちが一斉にコートに詰めかけ、試合が終わるのを今か今かと待ち続けている。


 このまま行けば、隼人の大逆転勝利は確実。


 そんな中で安藤を引き連れた様子がコート上に姿を現し、彩花を単位不足を理由に無理矢理失格にして静香をインターハイに出場させるべく、手にしたマイクで大勢の観客たちに呼びかけようとしたのだが。


 「ちょっと待つザマ…!!」

 「彩花ちゃあああああああああああああああああああああああん!!」


 そこへポチに護衛された静香が、言いかけた様子の言葉を遮って大声で叫びながら、楓の肩を借りてコート上に姿を現したのだった。

 まさかの予想外の人物の登場に、彩花も様子も唖然とした表情になってしまっている。

 様子の余計な横槍のせいで黒衣が暴走し、安藤に鎮静剤を撃たれて医務室で眠っていたはずなのに。


 いや、鎮静剤の効果が、未だに身体に残っているのだろう。

 今の静香は楓の肩を借りて立っているのがやっとの状態のようで、明らかに辛そうな表情をしていた。

 そんな状態にも関わらず、静香は楓の肩を借りながら、こうして彩花の前に姿を現したのである。


 「し…静香ちゃん!?」

 

 それは今の彩花に、どうしても伝えたい言葉があったから。

 静香は鎮静剤による強烈な眠気と脱力感に襲われながらも、懸命に彩花に呼びかける。


 「彩花ちゃん!!忘れてしまったんですか!?バドミントンの楽しさを!!面白さを!!」

 「…え?」

 「藤崎コーチも仰られていたじゃないですか!!バドミントンは楽しく真剣に!!そしてその言葉通りに、彩花ちゃんは私との準決勝を、あんなにも楽しそうに戦ってくれたじゃないですか!!」


 それはバドミントン本来の『楽しさ』と『面白さ』。

 隼人に追い詰められ、とても辛そうな表情をしている彩花に対して、それを静香は必死に彩花に伝えようと…いいや、思い出して貰おうとしているのである。 

 類稀なバドミントンの才能と実力を『宿してしまった』せいで、周囲の大人たちの身勝手なエゴに振り回され、絶望の果てに黒衣に呑まれてしまった彩花に対して。


 「なのに今の彩花ちゃんは何ですか!?たかが神衣を纏った須藤君に18連続ポイントを取られた位で、そんなこの世の終わりみたいな顔をしてぇっ!!」

 「だ、だけど…私は…!!」

 「彩花ちゃんは私を倒して、こうして決勝の舞台に立ってるんですよ!?しかも相手は彩花ちゃんの幼馴染の須藤君なんですよ!?それは彩花ちゃん自身の実力で掴み取った最高の舞台じゃないですか!!それをこんな形で終わらせるなんて…っ!!」


 だが流石に無理があったのか、静香が楓の肩を借りながら、力無くその場に崩れ落ちて片膝をついてしまったのだった。

 そんな静香の弱々しい姿を、静香に肩を貸しながら心配そうな表情で見つめる楓だったのだが。


 「朝比奈さん!!無茶よ!!鎮静剤の効果がまだ残ってるのに!!」

 「…鎮静剤…!?」


 それでも静香は楓の肩を借りながら奮起して立ち上がり、真っ直ぐに彩花を見据え…。


 「そんな道理ぃっ!!私の無理でこじ開けます!!」

 「はああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 次の瞬間、静香の身体が黄金の闘気に包まれたのだった。

 類稀な才能をその身に宿す者が絶望を乗り越え、一筋の『希望』を見出した際に権限するとされている、伝説の闘気。

 闇を切り裂く、光の神衣を。

 静香もまた隼人と同様に、神衣に目覚めてしまったのである。

 まさかの事態にバンテリンドームナゴヤが、物凄い騒ぎに包まれてしまう。


 そんな騒ぎなど知った事じゃないと言わんばかりに、神衣の力で無理矢理鎮静剤の効果を打ち消した静香が、彩花に対して必死の表情で呼びかけた。


 「私の黒衣が暴走した事を気に病んでいらっしゃるのなら、そんな物は余計なお世話ですよ!!彩花ちゃんとの準決勝は、お母様のせいで台無しにされてしまいましたけど!!それでも私はとても楽しかったって!!今でも心の底から本気で思っていますからっ!!」


 そう、それこそが静香が掴み取った『希望』。

 そしてそれこそが、今の彩花にどうしても伝えたかった言葉。

 隼人や彩花にも劣らない程の類稀なバドミントンの実力と才能を『宿してしまった』が故に、幼少時から誰も静香を満足させる事が出来なかった。

 さらに隼人や彩花と違い指導者にも恵まれなかった事から、静香は幼少時からずっと『天才であるが故の孤独』を味合わされ続けてきた。

 それだけではなく周囲の大人たちの身勝手なエゴにも振り回され続けてきた結果、一時は大切な友達である詩織とも理不尽に引き離されてしまった。


 だがそれでも静香は、ようやく巡り合う事が出来たのだ。

 自分と互角に渡り合える程の実力を持つ、自分を心の底から満足させてくれる、隼人や彩花という『2人の神童』に。

 残念ながらトーナメントの組み合わせの都合上、隼人とは対戦機会が無かったのだが。

 それでも準決勝で戦った彩花は、自分の全身全霊に充分過ぎる程応えてくれた。

 結果的に彩花を相手に僅差で敗れてしまったものの、それでも静香は彩花との試合において、心の底から目一杯満たされたのだ。


 それを静香は、絶望する彩花に伝えたかったのである。

 私は彩花ちゃんとの準決勝で、こんなにも満たされる事が出来たのだと。

 静香が纏う神衣は、まさにその揺るぎない証明だと言えるだろう。


 「だから彩花ちゃん!!自分で自分を追い込まないで!!下を向かないで前を向いて!!須藤君との決勝戦を、どうか存分に楽しんで!!」


 そんな静香の姿に触発された雄二と力也が立ち上がり、彩花に対して真剣な表情で懸命に声援を送ったのだった。


 「藤崎!!お前は俺と二階堂に勝ったんだろうが!!ここまで勝ち上がって決勝の舞台に立ってるんだろうが!!だったらもっと堂々と胸を張れぇっ!!」

 「押忍!!朝比奈の言う通りだ!!辛い時こそ下を向くな!!しっかりと前を向いて、対戦相手の須藤を見据えるんだ!!」


 いきなりの雄二と力也の行動に、唖然とした表情になるダクネス、亜弥乃、内香、詩織。

 いいや、雄二と力也だけではない。


 「藤崎ーーーーーーー!!負けるなーーーーーーー!!」

 「藤崎さん!!まだまだ試合はこれからよ!!」

 「試合はまだ終わっていないぞ!!最後の最後まで絶対に諦めるなぁっ!!」


 何と地区予選大会と県予選大会で、彩花に五感を奪われ敗北した選手たち全員が。


 「藤崎さん!!お願いだから、どうか悔いだけは残さないで!!私みたいに大切な決勝戦を台無しにだけはしないで!!どんな形であれ、貴女はこうして県予選の決勝の舞台に立ってるんだから!!」


 さらに周囲の身勝手な大人たちの下らないエゴに巻き込まれ、一生の思い出として残るはずだった、彩花との大切な地区予選大会の決勝戦を台無しにされてしまった理奈までもが。

 今、こうしてバンテリンドームナゴヤに集結し、席から立ち上がって彩花に対して精一杯の声援を送っているのだ。


 「諦めるな藤崎!!お前はこんな所で終わるような奴じゃないだろ!!」

 「頑張って!!彩花ちゃん!!」

 「諦めたらそこで試合終了だって言うだろ!?」


 そんな彼らの声援に後押しされたかのように、他の観客たちも一斉に彩花に対して声援を送る。

 その温かい声援を全身に浴びた彩花が、呆然とした表情で客席を見つめていたのだが。


 「そ、そうだ藤崎!!お前は去年の大会で俺に勝ったんだぞ!!だから隼人なんかにそんなに簡単に負けてんじゃねえ!!」


 とうとう隼人の味方であるはずの駆までもが、周囲に触発されて彩花を応援してしまったのである。

 去年の中学時代の県予選大会で圧倒的な強さを見せつけ、自分を完膚なきまでに叩きのめした彩花を。

 その彩花へのリベンジは、県予選大会で静香に負けた事で彩花と戦う事すら叶わず、結局果たす事が出来なかったのだが。

 だからこそ駆は彩花には、こんな不本意な形で負けて欲しくないと…思わずそんな事を考えてしまったのである。


 どうせ隼人に負けるのであれば悔いだけは残さないように、ちゃんとした形で負けて欲しいと。


 「いやいやいやいやいや!!駆!!君は一体どっちの味方だあああああああああああああああ!?」


 いきなり彩花を応援し出した駆に対して苦笑いしながら、彩花に対して黄金のサーブを放った隼人だったのだが。


 (…ああ…そっか…!!私は…!!)


 次の瞬間、隼人の足元に、黄金のシャドウブリンガーが突き刺さっていた。

 いや…光輝く聖なる一撃…ライトブリンガーと言うべきだろうか。


 「…へ!?」


 一体全体何が起きたのかと、思わず呆気に取られてしまった隼人だったのだが。


 「…あ…え、ええと…!!エ、18−19!!」


 慌てて審判が彩花の得点を告げた途端、バンテリンドームナゴヤが物凄い大喧騒に包まれてしまったのだった。

 ダクネスも亜弥乃も内香も。雄二も力也も詩織も。沙也加と佐奈も。

 そして観客の誰もが驚愕の表情で、目の前の彩花の勇姿に視線が釘付けになってしまっていたのだった。


 何故なら先程まで黒衣に呑まれていたはずの今の彩花が、その身に纏っているのは…。


 「あ、彩花ちゃんが神衣を!?」


 目の前の彩花の神々しい姿に、思わず唖然としてしまっている隼人。

 そう、彩花もまた先程の静香と同じように、自らを呑み込んでいた黒衣を振り払い、神衣に目覚めてしまったのだ。


 「あああ…!!彩花…っ!!」


 そんな彩花の勇姿を、六花が両手で口元を押さえながら目から大粒の涙を流し、感慨めいた表情で見つめていたのだった。

 聖ルミナス女学園において、周囲の大人たちの身勝手なエゴのせいで生き地獄を味合わされ、絶望の果てに黒衣に呑まれてしまった彩花が。

 今、こうして、隼人や静香と同じように、神衣をその身に纏っているのだ。

 それはつまり今の彩花が、絶望を乗り越えて『希望』を見出した証だ。


 今の彩花にとっての『希望』とは、今の静香からの励ましの言葉なのだろうが、それだけではない。

 今まで自分が五感を奪ってきた対戦相手全員からの、全く予想もしなかった心からの声援なのだろう。


 自分に罵声を浴びせても、決しておかしくなかったのに。

 その権利が、彼らにはあるはずなのに。

 自分の事を憎んでいる者だって、いるはずだろうに。

 それなのに彼らは心の底から、彩花に対して温かい声援を送ったのである。


 彼らは隼人と違って、彩花が黒衣に呑まれてしまった理由を、彩花が聖ルミナス女学園で味わった生き地獄を、その真実を六花から全く聞かされてはいない。

 だがそれでも彼ら全員が、本当は分かっているのだ。

 事情は知らないが、黒衣に呑まれる程の絶望を味わった彩花こそが、ある意味では最大の被害者なのだという事を。

 彩花だって何も好き好んで、自分たちの五感を奪ってしまった訳では無いのだという事を。


 だからこそ彼らは、自分たちの五感を奪ってしまった彩花を、全員が心の底から赦し、温かい励ましの言葉を送ったのだ。

 それを理解したからこそ、彩花は絶望を乗り越えて『希望』を見出し、神衣をその身に宿す事が出来たのである。

 

 「ハヤト君。今更遅いかもしれないけどさ。」


 目に涙を浮かべながら、彩花は満面の笑顔で隼人に呼びかける。


 「私と君の決勝戦…!!ここから存分に楽しもうよ!!」


 そんな彩花のいきなり豹変した姿に、流石に驚きを隠せずにいる隼人だったのだが。


 「…ああ、そうだな!!」


 それでもすぐに気持ちを切り替え、自分の足元に転がっているシャトルを拾い、力強い笑顔で彩花に応えたのだった。

 次回、隼人VS彩花、決着です。

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