最初の街
川に着くと、ミーシャは真っ先に水浴びをしに行くと言って、あっという間に見えなくなった。
残った俺達は、薪を集めて火を熾し、ミーシャの帰りを待っていた。
暫く黙ったまま、焚き火の様子を見ていると、向かいに座っているアルクが言った。
「なぁカイト、街に着いたら冒険者にならないか?」
俺は突然の誘いに、驚きつつも、少し嬉しい様な気がしていた。
「冒険者か…確かに旅人だとこの先厳しいよな…。」
(世界を旅するのだって、金は必要だしなぁ…)
俺は内心悪くないと思った。
すると、アルクは慌てて言った。
「あ…ごめん。別に旅を止めろって意味じゃないんだ、ただその…なんて言うか…。」
(やべっ、つい心の声まで言葉にしてしまった!)
俺も、いまの発言に対して、すぐに訂正した。
「あ、謝らないでくれアルク…。俺も正直、旅だけじゃ生きていくのは大変だと思っていたんだ。」
(まぁ実際、この世界でやりたい事もまともには決まってないしな…)
そう言うと、アルクは嬉しそうに聞いた。
「そうか…!なら、どうかな?俺たちと一緒に冒険者やらないか?」
(どの道、これからは金も必要になるし、冒険者やりながらアルク達と世界を周るのも悪くないか……)
「そうだな…何事も経験って言うし、俺…なるよ冒険者に。」
そう言って、アルクの前に立ち拳を出すと、アルクも立ち上がって拳を突き当てて言った。
「ありがとうカイト!これかは仲間としてよろしく頼むよ!」
「あぁ、こちらこそよろしくな!」
こうして俺は、冒険者になると誓った。
「なぁに?二人でいちゃついちゃってぇ~」
「ぶわぁっ!!」
するとその様子を後ろで見ていたミーシャが、俺の背後から現れた。
(びっくりしたー!!)
「ミーシャ、別にいちゃついてたわけじゃ…」
アルクがそう言いかけると、ミーシャは嬉しそうな顔で言った。
「分かってる…話は聞かせてもらったから。私も仲間として、これからよろしくお願いしますねカイト!」
ミーシャは、そう言って俺に手を差し出した。
「あ、あぁ。こちらこそよろしくなミーシャ。」
俺はそう言って、ミーシャと握手を交わした。
こうして、俺たちは仲間になった。その後は3人で火を囲み、色んな事を語り合って親睦を深めたのだった。
それから2日後、俺達はようやく街道に出る事が出来た。
「結局、バーゲストウルフ以来、スライムしか出なかったね…」
「まぁ、無事にここまで来れたんだし、幸運だったと思うよミーシャ」
「そうだぞ…まぁ、素材を剥ぎ取るのを忘れてたのは残念だったけど…」
実は、川で夜を明かした後ここまで来る道中で、ミーシャが突然思い出したのだ。
「それは言わない約束でしょカイト……」
そう言って、ミーシャは落ち込んだ。
「仕方ないよミーシャ、私も討伐の依頼は数えるほどしか経験が無いし、あの時は色々ありすぎて忘れていたんだ。」
アルクは申し訳なさそうにミーシャに謝っていた。
(魔物を討伐した後の剥ぎ取りか~確か依頼に関わらず、倒した魔物の部位を持っていけば特別報酬が出るんだっけ…)
俺がそんな事を考えている間も、後ろでは落ち込むミーシャをアルクが慰めていた。
(しかし、忘れてたとはな…さすが駆け出しの冒険者と言うかなんと言うか。)
俺は、そんな二人のやりとりにクスクスと笑いながら歩いていると、後ろからアルクが質問を投げかけた。
「そう言えばカイト、さっき森で遭ったスライムにかなり驚いていた様子だったけど、見るのは初めてだったのか?」
そう言うと、いつの間にか元気を取り戻したミーシャも入ってきた。
「あ、それわたしも気になってた…もしかして北の方は寒すぎで居なかったとか?」
「あぁ、いや…そうじゃなくてだな…」
(確かに、実物を見るのは初めてだが…『前世で会社の後輩に勧められたアニメでは、最強の種族だったんだよスライムが…』なんて説明できないし……ましてや可愛かったなんて口が裂けても言えない!)
俺は暫く考え、いい話を思いついた。
「あーコホン!いいかお前ら、俺の故郷には伝承があってだな…」
(まぁ、故郷って言っても前世の話だけどね…)
「えっと…『スライムは魔王にすらなれる可能性を持った種族が故に、こちらからは手を出すべからず。』って言葉があるんだよ。」
(まぁ、伝承と言ってもアニメですけどね…)
すると、ミーシャが目を輝かせて言った。
「凄いですカイト!そう言った伝承があると言うことは。この世界にかつて魔王になったスライムがいたってことですよね!」
(まぁ、少なくとも前世には居た…かな…)
「まさか北の方にそんな伝承があったとは…カイト、他には…他にはないのか!?」
そして、なぜかアルクも食いついた。
(他にって…なんかあったっけな……そう言えば後輩に言われて見たもう一つのアニメでは確か……)
俺は少し考え、わざとらしく咳ばらいをしてから話した。
「あ、あー確かこんな伝承もあったな…『スケルトンを軽んじる者は、失意の底まで落とされ、この世の真の地獄を垣間見るだろう。侮るな、それは死すらも超えた存在足り得ると知るべし。』」
俺が言い終わると、今度はアルクが先に言った。
「なるほど…確かにスケルトンは何度倒しても起き上がってくると聞いたことがある…そうか、それはつまり死を超えた存在で。不死とも捉えられると言う事か。」
(あ、アルクってやっぱり真面目なのかな…)
「流石、伝説の民と呼ばれる人たちの知恵ですね!」
(ミーシャはなんと言うか…て言うかなんだよ伝説の民って…)
そうこうしていると、前方に大きな街が見えて来た。
「おぉ!すげぇ…あれがアルクが言ってた『ヴィーゼ』の街か…!」
(でけぇ…そして屋根の色がこれ以上にない程ファンタジーしてる…)
俺の目に映ったのは、まさにゲームやアニメで見た大きな街だった。
「本当に街は初めてだったみたいだね。まさかカイトがそんなに目を輝かせるなんて…正直驚いたよ。」
アルクは少し馬鹿にしたように言って、クスッと笑った。
「もう、アルク!誰にだって初めてはあるんだから、そんな事言ったら悪いよ。」
ミーシャは、アルクに注意しつつも、俺の姿を見てなんだか嬉しそうにしている。
「悪かったな!まさかこれほど大きな街だとは思わなかったんだよ!」
俺が少しふてくされて見せると、二人はわざとらしさに気づいたのか、声を上げて笑った。
「笑うんじゃねーよ!」
「いやぁ、ごめんカイト…つい面白くて…」
「本当ごめんね、意外と可愛いところもあるんだね…」
(あ、こいつら悪いと思ってねぇーな…)
そう言いつつも、二人は笑いを堪えてるようだった。
その後、ようやく元に戻ったアルクが、気持ちを切り替えて言った。
「…さてと!この街道を下ったら街まですぐだから、あと少しがんばろう!」
アルクはそう言って、先頭を歩いた。
「冒険者か、楽しみだな。」
「そうだね、街に着いたらまずはみんなで組合にいこっか!」
そう言って俺とミーシャはアルクの後ろを追ったのだった。




