冒険者組合ヴィーゼ支部…
それからしばらく、俺が街に見とれながら歩いていると、それに気づいたアルクが街について教えてくれた。
「カイト、あそこに入り口が見えるだろ?」
そう言って指をさした方を見ると、街を囲う石塀の一画に確かに入り口があった。
「あそこがヴィーゼの正門で、私たちが今向かっている場所なんだ。」
(正門か……)
「街の入り口はあそこだけなのか?」
そう尋ねると、横にいたミーシャが答えてくれた。
「街に出入り出来る場所は正門を合わせて3ヵ所…残りの2ヵ所は日が落ちると閉じられて、正門からしか入れなくなるの。」
すると、続けてアルクが言った。
「正門は、常に兵士が立っていて、冒険者の為に夜も開けたままにしてあるんだ。あ…もちろん他の門も見張りと巡回が周っているから、もしも街に魔物が襲って来ても冒険者が駆けつけるまでは食い止める事ができる。」
「なるほど…」
(てか、街に魔物が襲って来ることがあるんだ…用心しておこう。)
そうこう話している内に、俺たちは正門に着いた。
「はぁ~やっとついた~」
ミーシャは、安堵の声を上げながら全身の力を抜いた。
「無事に付けたのもカイトのお陰だね。」
アルクも安心したのか、顔が少し緩んだように感じた。
「よせよ二人とも、そんなことよりも冒険者組合が先だろ?」
褒められた事に、少しばかし照れてながら言うと、二人はニコニコしながら案内してくれた。
街の中は、まだ昼前って事もあってなのか、とても賑やかだった。今歩いている大通りの端では、見たことのない果物や野菜それを加工した品々が並んだ店などが多くあり、売り手の人は、街を行き交う人達に声をかけまくっている。
(まるで祭りの屋台に来た気分だ。)
見たところ、街を行き交う者達はほとんどが人間種で、数は少ないが、亜人種もちらほらは確認できた。
(あれは…獣人か!?確か女神の知恵の中には犬や猫、ウサギや鳥の種族が居るとは書いてたけど……本当に居るんだな。おっ…向こうの剣やら弓やらを持っている人たちは冒険者かな?)
しばらくの間、街の様子や建物などを細かくみながら歩いてたら、立ち止まった二人の背中にぶつかった。
「いてっ……あぁ、ごめん二人とも…」
すると、二人は振り向いて言った。
「着いたよカイト、ここが冒険者組合…通称『ギルド』だ。」
「ようこそカイト君、ここで君は私たちと同じ冒険者になるのですぅ。」
俺はおでこを撫でながら、建物を見た。
「おぉ、ここが冒険者組合…」
そこには、3階建て程のそこそこ大きな『ギルド』があった。
(これが噂のギルドってやつなのかぁ~イメージでは木材作りのボロボロだったけど…実際は奇麗なもんなんだなぁ~)
「あ、そうだ!カイトが登録している間に、私は依頼の報告と報酬の手続きをしてくるね!」
ミーシャは、そう言って一足先に仲へと入っていった。
「カイトの登録は私が付き添うから安心してくれ。」
アルクは得意げな顔でそう言った。
「分かった、よろしく頼むよ。」
こうして、俺達もギルドの中へ入ったのだった。
中に入りアルクについて行くと、先ほどまで賑わっていた冒険者達がなぜか徐々に静かになった。
(あ、あれ?なんか俺、物凄く周りから睨まれてるような気が…)
俺は、受付嬢がいるカウンターに向かって進むアルクに、後ろから小声で話しかけた。
「な、なぁアルク…俺、何かマズい事でもしたのかな…?なんか、すっごく周りから睨まれてる気がするんだけど……!!」
すると、その様子に気づいたアルクも小声で言った。
「君に心当たりがないのなら、恐らく珍しい見た目をしているからじゃないかな…?」
(やっぱりあの女神、テキトーな事を俺に吹き込みやがったな!!)
俺は、少し不安になりながらも、周りの冒険者をさり気なく見た。
(うっ、やっぱり見られてる……不良に囲まれるサラリーマンの気分って、こんな感じなのかな……まぁ俺は経験した事は無いけども…)
すると今度は、冒険者達がヒソヒソと話始めた。
(今度はなんか話してるー!!)
「なぁ、アルク…!今度はなんか話してるんだけど…!俺、ここに居ても大丈夫かな…?」
すると、アルクは少し耳を澄ましてから言った。
「心配ないよ…やっぱりみんな君の見た目が気になってるみたいだし…」
(あ、こいつスキルで聞き耳立てたな…)
そんな事を思っている間に、俺たちはカウンターに着いた。
すると、受付嬢がこちらに気づき、笑顔で言った。
「ようこそ!冒険者組合ヴィーゼ支部へ!本日はどの様なご用件でしょうか?」
するとアルクが、隣に来た俺を指さして言った。
「その、冒険者登録をお願いしたいのですが…」
受付嬢は、俺の顔を見ると一瞬固まった様に見えたが、そのまま笑顔を崩さずに言った。
「かしこまりました!では、手続きの準備をしますので、しばらくそのままでお待ち下さい。」
そう言って、担当の受付嬢は奥へと行ってしまった。
その様子を見てなのか、俺の見た目に興味が無くなったのかは分からないが、周りの冒険者達は先ほどとは一変し、少しずつではあるが、また騒がしく喋り声が聞こえてきた。
(ふぅ~。何だったんだろうさっきの空気は…)
その様子に少し安心しながらアルクと待っていると、受付嬢よりも先にミーシャが帰ってきた。
「二人ともお待たせ―!」
すると、アルクがミーシャに尋ねた。
「おかえりミーシャ、思ったよりも早かったね、それで無事に報酬はもう受け取れたのかな?」
「もっちろん!しかも…三人で沢山集めたおかげで、思ってたよりも多く特別報酬がもらえたよ!」
そう言って、ミーシャは手に持った布巾着を上下に振って見せた。
「おぉ、結構あるみたいだね…これならカイトにも護衛の報酬を渡せそうだよ。」
アルクは、ミーシャから布巾着を受け取り、ミーシャと金額を数え始めた。
(最初はただの他人だったけど…今じゃ俺達は仲間になったんだよな…)
俺は、冒険者に誘ってくれたり、色々な事を教えてもらった事や、二人と交わして笑った話などを思い出すと、護衛の報酬を貰うのがなんだか気まずくなってきた。
(それにアルクは武器も失ってる訳だから、買うための資金も必要なはず……いや、アルクはそんな事くらい分かっているはずだ……だけど…)
「おまたせカイト。これで報酬が足りるといいんだけど……」
アルクはそう言って、布巾着を渡した。
(はぁ…やっぱりな……アルクは良くも悪くも真面目すぎる。)
中を確認すると、さっきアルクが手に出して確認したお金のほとんどが入っていた。
「やっぱり、これだけでは足りないかな…」
そう言って落ち込むアルクに、俺は無言で報酬の入った布巾着を突きつけた。
「こんなに多くは受け取れない。」
「えっ…でも…」
(困ったな…こう言う時って、なんて伝えるのがいいんだろう……)
俺は、前世で見たアニメを思い出してみた。
(もしも、あの主人公ならこう言う時にどう言うだろうか……相手をなるべく気づ付けず、三人が納得出来る様なセリフは……はぁ…演技は得意じゃないけど、ここは仕方ないか…)
俺は、恥ずかしながらも戸惑うアルクに言った。
「アルク、それとミーシャ。俺たちは仲間になったはずだ。」
「そ…うだが、それとこれとは話が……」
「いいや同じはずだ、仲間とは共に助け合い励ましあうものだ。そして、時には痛みや悲しみも分かち合う存在…だろ?」
「「カイト……」」
「だからこそ、こんなに多くは受け取れない……どうしても受け取って欲しいと言うのなら、せめて三人で均等にした額じゃなきゃ俺は納得しない。」
そう言うと、アルクは真剣な顔で俺に言った。
「分かったよカイト…まさか君がそこまで私たちの事を仲間だと認めてくれていたなんて……」
ミーシャは涙目で少し声を震わせながら言った。
「ありがとうカイト…私もこれから精一杯みんなの役に立てるようがんばるねっ…」
(涙が出るほどだったとは……)
「あ、あぁ…分かってもらえたなら…構わないから…」
二人に向かってそう言うと、アルクが俺の顔を見て言った。
「なら、これは登録が終わった後でしっかりと均等に分けるよ……ところでカイト、一つ聞きたいんだけどいいかな…」
「な…なんだ?」
「どうして、そんなに顔を赤くしているんだい?」
俺はその言葉に固まった。
(ばっかお前っ!!それは聞くんじゃねぇーよ!!自分が言った事が恥ずかしいからに決まってんだろーがぁ!!!)
だがしかし、俺はそれを難なく交わす言葉を唱えた。
「あーゴホン…何でもないから気にしないでくれ……」
(今度からはふざけるのは控えよう……)
こうして俺は、この世界に来て初めての『恥ずかしさ』を味わったのだった。




