魔物
そして次の日の朝、俺は大きな声と、何かを叩く音で目が覚めた。
「起きてください!!起きて下さい!!」
(うぅ~、男の声……誰だ?)
「助けて!!お願い助けて!!」
(女の声…助け…はっ!!)
俺はすぐに跳び起き、声のする方を確認すると、結界の外に人がいた。
(傷だらけの男女…ただ事じゃないな。)
俺の姿を見た二人は、少し安心した顔になった。
「お願いします!この結界の中に入れてくれませんか!」
男性は少し涙目になっている。
「私からもお願いします!魔物に追われているんです!」
女性の方は涙を流しながら何度も頭を下げていた。
俺は、すぐに【リジェクションウォール】の一部に通れる穴を開け、二人を中に入れた。
二人は、すぐさま駆け込んだ後、その場で膝から崩れ落ちた。
(男の方は、背中に空の筒……女の方は…杖?みたいなのを持っているが…)
「一体何があったんだ!?」
俺がそう尋ねると、男性は息を整えながらも慌てた様子で言った。
「ば、バーゲストウルフです!!」
その瞬間、木々の少し先の方から殺意のこもった唸り声が聞こえてきた。
「ど、どうしよう……」
女性の方は、全身を震わせながら、唸り声が聞こえる方を凝視していた。
(バーゲストウルフ…確か…魔法で鎖を操る魔物……スキルと魔法もあるし、腕試ししておくか…)
俺は、後ろに居る二人に手をかざして言った。
「二人とも、俺が奴の相手をしますから、この結界から絶対出ないで下さいね。」
そう言うと、男性の方が後ろから俺の服を掴んで言った。
「巻き込んでしまって本当に申し訳ない…俺たちは…」
俺は、言葉を遮るように、優しく言葉を返した。
「大丈夫、俺に任せて下さい!!」
すると、男性は顔を上げ、俺の顔を見て頷いた。
「スキル!【ボディオブフォートレス】」
俺は、身体超強化のスキルを発動させて、結界内から出た。
すると、唸り声と同時に、地を駆ける音が聞こえて来た。
(来る……)
俺は短剣を構えて、腰を落とした。
すると、俺の背丈の3倍はあろう巨体が正面から飛び掛かり、俺に牙を向けてきた。
(なるほど、一撃で俺を噛みちぎって、終わらそうって考えか……)
空中で隙だらけの攻撃をかわすのは勿体ないと判断した俺は、タイミングを計って後方転回し、そのままバーゲストウルフの顎の辺りを蹴り上げた。
(よし、反射神経も動体視力も問題なく強化されてる…)
バーゲストウルフは宙に浮き、俺の後方の地面を滑りながらも器用に方向を変えた
(あれ?ちょっと力加減弱すぎたかな…)
そして、そのまま滑りながら、片方の前足から魔法の鎖を勢いよく俺に伸ばしてきた。
(なるほど…それなら……)
俺は、鎖が目の前に来た瞬間に、短剣の側面でこの直線的な軌道の攻撃を受け流した。
短剣と鎖の間には火花が散り、ただの鉄の短剣は少しずつ刃が欠けていく。
(おっと、折れるのは面倒だな……それに、思ったより威力はないみたいだし、このスキルだけで十分か。)
バーゲストウルフの一連の攻撃が止んだ後、俺は少し距離を取り、短剣を戻して拳を構えた。
バーゲストウルフはそれを見て、怒り狂った様な咆哮を放った後、一度姿勢を低くしてから俺に飛び掛かってきた。
(さっきより速い……けど。)
俺は、空中から鋭い爪で攻撃しようとするバーゲストウルフよりも速く一歩を踏み出し、懐に入り込んで胸の中心を強めの力で殴った。
(この感触…)
「あっ、やべっ…」
衝撃音と共に、バーゲストウルフの胴体は二つに裂け俺は血と臓物を上から浴びてしまった。
「マジか……」
俺は拳を天に突き上げたまま固まった。
(血生臭ぇ……)
それから、絶命したバーゲストウルフの肉塊から離れ、近くに居た二人を見ると、まるでバケモノを見ているような顔で俺を見ながら震えていた。
(はぁ~やっちゃった…)
とりあえず、俺は全部のスキルを解除して、二人の所に歩き出した。
「あ、アハハ……やりすぎたみたい……」
苦笑いを浮かべながら歩いて行くと、二人は俺の姿に顔を歪めながら、後ずさりして言った。
「ば、バーゲストウルフをあんな簡単に…。」
「あ、あなたは一体……」
俺は、返り血まみれのまま二人に手をかざして言った。
「詳しい話は後にして。とりあえずこの返り血を洗い流してもいいかな?」
二人に困った顔を向けると、少し間をあけてから頷いた。
俺は二人から少し離れ、昨日作った魔法を唱えた。
『スパイラルウォーター』
すると、俺の周りを水が渦巻き、まるで洗濯機の様に、返り血を洗い飛ばした。
「よし、問題なさそうだ。次は…」
俺は続けて、両手を広げて魔法を唱えた。
『ドライ』
今度は、俺の周囲に熱を帯びた風が渦巻き、余分な水分を飛ばしながら乾燥してくれた。
「これも上手くいったな…」
体もすっかり奇麗になった俺は、二人の元へと歩き出した。




