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一千年のバウンダリー  作者: 簪時雨


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〜幻の園〜


ーーここはとても静かな空間だ。


木漏れ日を浴びながら、そよ風を受け、木々が擦れる音に耳を澄ましている。

エルフの園の中でもひときわ神聖な存在とされている世界樹。恐れ多くもその世界樹に背中を預けて僕はすやすやと寝ていた。


エルフの園ーーー人間界では幻の園と呼ばれているその場所は、エルフたちにとって生命の源であった。

世界樹は絶えず魔素を生み出し、周囲に豊かな魔力をもたらす。エルフたちはその恩恵を受ける代わりに、世界湯を守って暮らしていた。

世界樹から半径百キロ程度の範囲には濃密な魔素が満ち、その地がエルフの居住地となっていた。




「おい!見ろよ!また無能のねぼすけエルフが世界樹様にもたれかかって寝てるぞ!」




静かな空間で気持ちよく寝ていたが、不快な大声のせいで起きる事となった。


 


「しょぼい魔法しか使えない、落ちこぼれエルフだ!珍しい種ですよね、ダンガ様!」

「あぁ。エルフにしては珍しいよな。こいつくらいだったら人間界へ連れ去ってもバレないんじゃないか?こんなのでもエルフだ。エルフは貴重だからな。

 奴隷市場で高く売れるだろ。」

「さすがダンガ様!!!エルドラー侯爵家の後継様です!!!」



今日は人間界から文化交流という名目で高貴な貴族がこのエルフの園へ訪問する事になっていた。

その事は末端であるエルフ、ルカ・ルーシの耳にも入っていた。


 

なぜなら…エルフの園に訪問する異種族は珍しいからだ。

それでも年に一度は人間との交流行事が開かれる。

 

そしてこの…目の前にいる三人は左から伯爵家の人間、侯爵家の人間、伯爵家の人間だ。このエルフとの交流イベントには必ず参加し、

毎年僕をいじめては楽しんでいた。三人が何度も何度も「我々はヒドリ伯爵家、エリューム伯爵家、そしてエルドラー侯爵家の後継だ!!!!」と

大きな声で言うものだから僕は三人の知りたくない家系まで覚えてしまった。


三人は現在大体十三〜十四歳程度だろう。それでも毎年姿形がほとんど変わらない僕は人間で言う八歳くらいの大きさでまだ成長が止まっている。

(いや、正確には止まっているのではなく、時の流れが人より格段に遅いだけだ。その分長寿でいられるというメリットはあるが。)


それが彼らにとってはとても面白いみたいだった。



「お前は他のエルフたちとは違って派手な炎魔法も氷魔法も、どの魔法属性も使えないんだもんな!エルフなのに人間より魔法が使えないって…

 ははっ!!!!お前みたいな落ちこぼれ、他のエルフたちも見たことないって言ってたぜ!!!」

「それにお前は母親も父親すらいない孤児のエルフらしいいな。同情するぜ。俺らが連れ帰っても気づいてくれるエルフすらいないなんてな!!」



そういうと一番体の大きいエルドラー侯爵の息子が僕に近づき、僕の腕を掴んだ。

 


「いたっ…!!!!」


 


その時ーーーーー




「やめんか…!!!!!!!」



三人の後ろから、三人にそっくりな大人が3人こちらへ向かっていた。



「お、お父様…。」



エルドラー侯爵の息子がそう言うと僕の腕を素早く離した。あの威張り散らした態度はすっかりと無くなっていた。



「そこのエルフ、名はなんという?」


「この者はルカ・ルーシと申します。エルドラー侯爵当主様。」



いきなりどこから現れたのか。細身で長身。丸メガネをかけ、綺麗な長い金髪をくくり、執事の格好をしたエルフが侯爵当主の真横に立っていた。

アレクドラ・リリー…異種族が来た際は必ず側に居るエルフの案内人だ。彼は転移魔法を使う。このエルフの園全体を把握し、園の中で何があっても迅速に

対応できるよう転移のマーキングを行なっている。


すぐに現れたのも納得だ。



「ふむ…先ほどの魔道具はこの者の発明だと言うのかね?アレクドラ殿。」

「まだまだ子供じゃないか!!信じられん。」

「エルドラー侯爵様。これは息子らに聞いていた魔法が使えないエルフの少年ではないでしょうか?」

「まぁ待て。アレクドラ殿の話を聞こう。エリューム伯爵。」



三人の大人が次々と話している。


…なるほど。立派な髭を生やし、髪の毛も肩まで伸ばしており、この中では一番大きいのがエルドラー侯爵。

次に顔よりもメガネをかけ、頬がこけており、髪の毛を大雑把にまとめているのがエリューム伯爵。最後にお腹が出ており、指にいくつもの指輪をして

大きいダイヤのネックレスをしているのがヒドリ伯爵か。



「…そうですね。まず先ほどお見せした結界魔道具については彼が発明者で間違いありません。彼は確かに他のエルフより変わった魔法を使いますが、

より実用的に、他者でも使用できるといった特質的な魔法なのです。


そしてヒドラ伯爵が子供ではないかという心配をしていましたが、

そちらもご安心ください。


彼は見た目こそ子供で、エルフの基準で言えば子供ですが

人間で換算すると50は超えております。一般的な知識は大人と遜色ありませんので。」



アレクドラ・リリーは淡々とエルドラー侯爵らに説明した。ヒドラ伯爵は「私より歳が上なのか!!!」と大きな腹を揺らせて驚いていた。




「ふむ…あの魔道具は完全に完成さえすれば、魔力から愛されていない我々人間にとって非常に役に立つ。

アレクドラ殿。一度我が皇帝にあの魔道具とこのエルフを拝謁させたいのだが、できるかね?」




息子ら三人が明らかに喜んでいるのが分かった。まさか僕を奴隷に売る気か…?そんなに馬鹿なのかあいつらは。と僕は思った。




僕が人間界で何かあれば、国交問題に発展しかねない。




エルフ族はどの国にも属さない、中立国家である。

エルフの園と呼ばれるこの地は、位置的にこのエルドラー侯爵が派遣された東の国であるドマニク帝国と

西の国のアランカ帝国のちょうど真ん中にある。両国とも長年戦争が絶えない程恨み合っているが、

戦争が起きる度、中立の立場を表明しているのがエルフ族だ。


元々エルフの園が山の秘境にある点とエルフ達が膨大な魔力を持つという点が、人間達にとって脅威なのである。


それにエルフの長であるマクロン・サーベル様は奴隷売買根絶を謳っている。そんな中僕が奴隷市場に出されたとあれば、侯爵家、伯爵家関係なく

処罰されてしまうだろう。それにドマニク帝国とは取引をしないとか言いかねない。マクロンじぃ様はそんなお方だ。




「あの魔道具は恐らく構いませんが…ルカもお連れになるのですか?」


「さよう。皇帝の前でこのエルフが自身の口から話し、皇帝からの信頼を得る為だ。」



エルドラ侯爵ははっきりと言い切った。


アレクドラはしばらく悩んだ後、難しそうな顔で答えた。



「…では、ルカはエルフで言うところの未成年にあたりますので、『万が一』ルカが人間界へ行く時は護衛として私がついていきます。

後、人間界へ出向く許可は私では判断しかねますので、この国の長であるマクロン・サーベル様へ許可申請をお願い致します。」




そういうとアレクドラ手を宙にかざした。すると人が通れるくらいの門が出てきた。転移の門である。

三人はエルドラー侯爵を筆頭に次々と転移門へ入っていく。最後ヒドラ伯爵が通過しようとした際、「お前達、早く来なさい。」と子供ら三人に声をかけた。三人は慌てて走って転移門を潜っていった。




「さて……最後はルカですよ。」



アレクドラは僕に微笑んだ。



「大丈夫ですよ。この先、何があっても僕は君から離れないし、この転移門で安全な場所へ連れてってさしあげます。」



そう言うとアレクドラは僕に向かって手を差し伸べてきた。



「…信じてるよ、アレクドラ…さん…。」


「ふふっ。アレクドラで十分ですよ、ルカ。」



僕はアレクドラの手をとって、転移門を潜った。

 

 







 

 

少し投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。次回をお楽しみに!

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