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一千年のバウンダリー  作者: 簪時雨


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プロローグ〜転生魔法〜




ーーー心ってのは、いつだってそうだ。



貪欲で、愚かで、醜く、汚い。



隙さえあれば弱みに付け入り、奪おうとする。




僕だってそうだ。


こんな廃れた森の中、孤独で生活しなければならない事も、全部……



 

……自分のせいだった。


 


かつて、この世界は豊かな魔素に満ちていた。

 


世界樹が魔素を生み出し、あらゆる生命がその恩恵を受けていた。

 


千年も昔の話だ。


 

僕は、その世界を壊した。


 

今でも、後悔しない日はない。




だから、心の何処かで、希望を捨てられずにはいられなかった。




世界樹……以前は同種の仲間である多くのエルフ達が世界樹の魔素を求め、住んでいた場所。



僕は仲間を取り返したく、千年もの間研究し、仲間を失った場所まで到達した。




「これで……みんなを、あの日、失ったみんなを……。」



 

僕は正気ではなかったと思う。



何日、何年、何十年、何百年……。

自身の魔法を研究し、ついに完成させた。



「界、定」



僕は1000層にも及ぶ結界魔法を展開した。


この1000層の結界を完成させるのに五百年、古代禁忌魔法習得の為にさらに五百年の月日を費やすことになってしまった。



結界のせいで、空が黒く濁っていた。



「理よ、屈せよ。

 ——汝らに再び尊き命を。

 

 古代転生魔法……



 ……禁開理越《トランセンド》……!!!」



 


あたり一面の魔素が、僕の眼前へと吸い寄せられていく。


渦を巻きながら集まった光は、次第に小さくなっていった。


小さくなるほど、密度が増していく。


やがて、それは拳ほどの大きさにまで凝縮された。


その中心で、何かが脈打った。





「……くっ……!!!!!」




あまりの膨大な魔力消費に体が千切れそうな感覚に陥った。





「こ、これは……成功……なのか……?」




僕が“それ”に触れようとした瞬間——




パァァァン!!!!!!




と弾けるように森の外へ出ようとした。



だが、1000層もの結界を展開していたおかげですぐには出ていけないようだった。



今の所、少し触れただけで、200層近く突破されている。



「これじゃ時間の問題だ。」




僕は塊に対し、すぐ壊れるが、またすぐできる結界を4層作り、塊のサイズに合わせて展開した。

1層破れば、また外側に1層の結界を展開する。そうする事で、塊が出ようとしても出られないシステムを作った。




「この塊が……千年かけた結果なんだ……な。」




どう見ても全滅した仲間分の魂があるとは思えない。


 

——あるとしても人、1人分の魂だ。



僕は1000層の結界を解除した。



かなり魔力を消費したせいか、妙に冷静さを取り戻していた。



——僕は馬鹿だ。こんな事に千年も……!!!!




そう思いながら、パチンパチンと音を立てて崩れてはまた再生する結界の中で縦横無尽に飛び回る塊を見つめた。






「キャァァァァァァァっ!!!!!!!」





見つめているとけたたましい叫び声に体が飛び跳ねた。


森の奥で、女性の叫び声がした。




僕は気になって思わずその声のする方へ向かった。




——————————————————————————————————————————






 到着すると、明らかに高貴な馬車に乗った夫婦らしき人たちが、野盗に襲われていた。




「か!金ならいくらでも払う!!だから、どうか命だけは……!!!!」


「うるせぇんだよ!!!!この貴族様が!!!!!」


「グハッ!!!!」



男の人は刺されてしまった。 


「い、いやァァァァァァ!!!!あなたァァァァ!!!!!!!」


女の人は男の人に近寄った。



自分の中で動かなければ、と思った。


けれど、動かなかった。



妙に冷静でかつ冷酷な自分がいることに気づいた。



 

——今の魔力では全員を助けることはできない。


 

そう思っていると、汚い男が、女性の前に立ちふさがった。


 

「おっと。お前は俺たちが相手をしてやるぜぇ。ちょうど汚ねぇ街角の女じゃものたりねぇと思ってたんだ。」


「いや……!誰か、誰か助けて……誰かァァァァ!!!!!」


「誰もこねぇよ!!!お前らがこんなあぶねぇ森に来ちまったのが運の尽きだな!!!


 ……こんな腐ったエルフの跡地になんぞに、旅行する馬鹿がいるとはな!!!!!!」




思わず体が反応した。

物陰に隠れて色々聞いていたが……今のは聞き捨てならない。




「馬鹿にするな!!!エルフには深い歴史があるんです!!!!」




馬車の中から小さな男の子が出てきた。




「なんで……!!!出てきちゃダメよ!!!!イアン!!!!!」


「母さん!!!だって……!!!僕が行きたいって言ったから!!!父さんだってこんな!!!!!」


「それでもダメよ!!!!!早く逃げて……!!!

 ……うっ!!!!!」


「母さん!!!!!」



 女の人はこの野盗のリーダーと思われる人物に刺されていた。



「お頭!!!どうして!!!!」


「この親子はあまりにもうるさすぎる。

 たとえ森の中だとしても、ほかにいないとは限らない。」



 1番体が大きく、見た目はかなりいかつい人だった。



「早くその子供を殺せ。俺たちの目当ては馬車に積んである金だ。」


「……へいへい。」



リーダーにそう言われた男は小さな子供に近づいた。



「母さん!!!父さん!!!!!

 許さない!!!お前ら全員許さない!!!!!」



子供は泣きながら、倒れている父と母を背にして近づいてくる男を睨んでいた。



「へいへい。言ってろ言ってろ。」




そう言うと、男は子供に鉈を振り下ろしていた。



子供は大量の血を吹き出し、その場に倒れた。


おそらく即死だろう。



「やっと静かになったか……。」


「金は全部奪ったぞ。次だ。行くぞお前ら。」



リーダーがそう言うと、野盗はそのまま過ぎ去って行った。




僕は野盗が完全に去った後、惨殺された家族に近づいた。



まだ7〜8歳くらいに思える。そんな子の最後の言葉が許さない……か。




「封、解」




隠密でよく使っていた音を消す結界魔法を解除した。



相変わらず、横では塊が音を立てて動いていた。




「もう一度やり直せたら……



 ……なんてな。でも、そんな言葉が最後だなんて、なんだか寂しいから……な。」




僕は最後の魔力を振り絞った。


この家族を全員助けてやりたい気持ちはあったが……古代魔法使用中は他の魔法を使えない。



それにこの塊を持ったまま戦闘できる余裕はなかった。




「……定着。」




小さな塊を結界ごと男の子の中に埋め込んだ。





血色の悪かった男の子の顔がみるみる良くなっていく。





自分でもなぜ名も知らぬ子に転生を施したのか、よくわからなかっった。


ただ長時間この塊を保持できなかったのは事実だし、その時にこの子は一度目の人生を終えていた。



最後に周りにあった魔素が子供の胸に集約されて完全に転生魔法は終了した。



「界、定。解析鑑定。」



結界を展開し、男の子の状態を確認したが、完全に魂が結合しているようだった。




「運が良ければ……どこかでまた会おう。」




——色々と限界だった。



千年の研究は上手くいかず、魔力を大量消費した挙句、救ったのはただの小さな少年。


 


魔力が尽きる寸前、僕はホウキドリのユリに人間を探してこの子の場所へ連れてくるよう指示した。

 



「ユリ……僕はもうこの子を人間のところへ連れていく気力はないから……頼んだよ。」

 


 

僕はそのまま、かつて多くのエルフが住んでいた場所。




——そう。再びエルフの園へ戻ったのだ。


 


次回はこの青年の過去編です。どうしてこんな事になったのか、掲載していきます。

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