〜人間界へ前編〜
ーーー転移門を潜った先は、思った通り、マクロンじぃ様がいつも座っている王座の前だった。
マクロンじぃ様が座る玉座の間は、左右に五本ずつ大きな柱が並び、一段高い場所に据えられた玉座に向かって緑のカーペットが敷かれてある。
天井は一面ガラスで出来ており、太陽が玉座を照らしている。天井のガラスは魔法ガラスであり、外の天候に関わらず、常に同じ景色を映し出す。
マクロンじぃ様はそう言っていた。その為、この太陽は偽物なのであろう。それでも凄く神秘的に感じた。
見渡すと他の六人は既に、マクロンじぃ様に向かって跪いている。
「…よく来てくれたなぁ…ルカよ。お前さんがちぃさい頃、遊び半分で作っていた魔道具をお前さんの許可なく勝手に人間達へ自慢してしまった、
こんなじぃさんですまんのぉ…。先に謝罪をさせてくれ。」
マクロンじぃ様はそう言うとあっという間に僕の前へ来て、深々と頭を下げた。
僕は緊張した。
マクロンじぃ様は確かに小さい頃、エルフの長だと僕に知らせず、僕が一人で住む家に遊びにきてくれた。
近所のじぃさんだと思っていたのに、まさかこの国の王様だなんて最初は受け入れがたかった。
だから「じぃちゃん!やめてよ、別にいいってばぁ…」なんて本当は言いたいけれど、今日のマクロンじぃ様は高服もお召しになっているし、
何よりこの空気が気軽に話してはいけないと言っている。
「か、構いません、陛下……。」
僕も反射的に頭を下げた。
マクロンじぃ様はサッと踵を返し、エルドラー侯爵達の方を見て言った。
「さて、エルドラー侯爵殿よ。貴殿はこの子が遊び半分で作った魔道具を人間界の王に見せるだけでなく、エルフを…ましては世の中を全く知らない
子供のエルフを連れていくのか??知っておろう。エルフは元々この世界樹から出ている魔素を糧に生きている。だからこそ多くのエルフは
この園から出たことがないのじゃ。
ましては…子供に。」
そう言うとマクロンじぃ様は僕の方を見て、頭を撫でてくれた。
「その点はご安心ください。先ほどアレクドラ殿よりご提案があり、アレクドラ殿がご一緒していただけるとの事です。何かあればアレクドラ殿の
転移門で、すぐにこの園へ帰還もできましょう。」
「それは誠か、アレクドラ。そなたが人間界へ行くのか???」
マクロンじぃ様は目を見開いた。
「…はい。私がいない間はメアリに任せたいと思っております。彼女も案内人として一人前になったかと思いますので。」
「いやはや。メアリがしっかりしておるのは知っているのだが…。そなたはこのエルフの園でわしの右腕でもある。何かあれば……」
「えぇ。だからこそ私に行かせてください。ルカをお守りできると思います。エルドラー侯爵様の言う通り、何かあれば、私の魔法が役に立ちます。」
しばらく沈黙が続いた。
マクロンじぃ様はどこか心配そうな…それでもアレクドラの意図を汲み取ったような顔をした。
「……ふぅ…。仕方ないのう。アレクドラはこの国でわしが一番信用している男じゃ。
そなたがここまで言うのであれば、ルカの人間界への訪問を許可しよう。」
「ありがとうございます。マクロン様。」
アレクドラはその場でマクロンじぃ様に跪き、胸に手を当てて頭を下げた。
その行動に合わせるように皆が頭を下げた。僕も同じように慌てて跪き、頭を下げた。
「では、我々は明日にでも国へ戻ろうかと思っております。よろしいでしょうか?」
エルドラー侯爵は顔を上げて立ち上がり、マクロンじぃ様にそう言った。
「あぁ。それでわしは構わんよ。ルカもアレクドラもそれで構わんな?」
「はい。構いません。」
「あ…は、はい…。」
僕が不安そうにマクロンじぃ様を見つめると優しそうな笑顔で、長い白い髭を触りながら頷いた。
「では、アレクドラよ。とりあえずエルドラー侯爵達をもう宿へ帰してあげなさい。
ここはいつも日が昇っているから分かりづらいかもしれないが、外はもう夕方のはずじゃ。
交流会も明日までの予定じゃったし、ちょうど良かろう。」
「はい。かしこまりました。」
「あぁ。それとルカも送ってやってくれ。明日から初めての国外じゃ。準備もあるじゃろうしのぉ。
そして送り届けたら、アレクドラはわしの所へ来てくれ。忙しいじゃろうが…頼んだぞ。」
「はい。仰せのままに。」
アレクドラは転移門を開くと、エルドラー侯爵一行はそこを通って行った。
そして再び、転移門を開いてくれた。
「ルカの家へ繋いでいる転移門です。また明日、日が昇り始める頃に私が転移門を開いて迎えに行きます。それまでごゆっくり。」
そうアレクドラは微笑んで言っていた。
僕は不思議でたまらなかった。あの魔道具はほんの出来心で作った作品なのだ。人間達が自国の王に見せるほどのものではないはずだ。
そう、エルフの中でも落ちこぼれと言われ続けてきた、そんな僕の落ちこぼれた魔道具だ。
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「さて、皆を送り届けてくれたのぉ、助かるぞ、アレクドラ。」
「いいえ。それが私の仕事ですから。」
アレクドラは頭を少し下げた。そしてマクロンはアレクドラに近づいた。
「ルカは…人間に認めてもらえるかのぉ…。」
マクロンは心配そうな顔でアレクドラから目を離し、自身のポケットから丸い筒状の棒を取り出した。
外側は落としても簡単には壊れないよう、世界一硬いルタの蔓が巻かれてある。そして両側の側面には呪文が刻まれている。
ルカが作った魔道具だ。
「ルカの作った魔道具はエルフ向きのものではありませんから…きっと人間には気に入ってもらえるでしょう…。」
「そうじゃなぁ…。あやつの親…いや、わしの息子夫婦も凄腕の魔法使いじゃったからな。あやつにも才能があると思っとる…。
エルフの中ではかなり馬鹿にされてきていたようじゃが、並みの魔法使いじゃこの魔道具は作れん。」
「えぇ…この魔法は、ルカの能力でないと作る事はできません。ただ……」
アレクドラは息を呑んだ。
「この魔道具は…完成すれば、人間にも…エルフを全滅させる事が…出来てしまいます。
それなのにこの魔道具を人間界へ持ち出しても大丈夫だったでしょうか?」
マクロンは少し険しい顔になったが、すぐにいつもの朗らかな顔に戻った。
「危うい力であることは分かっておる。じゃが、危うい殻と言ってあの子の才能を閉じ込めて良い理由にはならん。
……それに完成したとしても人間がエルフに襲いかかるとも限らん。
それよりもわしは…あの子が…あの子が堂々と自分の魔法に自信を持てるようにしてやりたいのじゃ。
どんな炎魔法も、氷魔法も…たとえ全属性鍛えたとしても一瞬にして無に返す…あらゆる魔法の干渉を遮断し、
性質そのものを書き換える……それを道具に込めることの出来る魔法…」
マクロンはルカの魔道具に目を落とした。
「この『結界魔法』を。」
ついに人間界へ。後編も来週掲載します。




