【メーナの勉強ノート5】
9/7 またくもり
せんせい:アイ04
メーナは4人のアイ達の中で、一番アイ04が好きだ。
いつも大人しくしていて、とても優しい話し方をしてくれる。
撫でるのはアイ01や02の方がうまいので、撫でられたいランキングでは4位だが、一緒にいたいランキングではいつも2位だ。
もちろん1位はリーベだ。
その大好きなアイ04が、しょんぼりと一人で膝を抱えていた。
声をかけようとして、マナミに止められた。
「今日はそっとして置いてあげて」
静かにそう言うマナミは、別に怒っていないことを最近は解ってきた。
ちょっと顔は怖いけど。
マナミはリーベと同じ顔じゃないかと言うが、全然ちがうのだとメーナは思う。
マナミはなにしろ一緒にいたいランキングで、いつも最下位なのだ。
「どうして話してはいけないの?」
メーナは元気付けてあげたいと思っただけなのに、どうして止められるのか解らなかった。
マナミはそっとアイ04を見て、メーナに小声で言う。
「人は一人で居たいときもあるのよ」
マナミはいつも説明が簡単で、良くわからない。
あとでリーベやリステルに聞いて教えてもらうことも有る。
「‥‥わかった」
ちょっと口を尖らせるが、メーナは聞き分けた。
マナミはすぐに訊ねると、「少しは考えなさい」と怖い顔をするので、すぐに聞いたりしない。
メーナはとても利口で、怒られないように考えることはするのだった。
アイ04をそっとして離れ、マナミも居なくなったので、誰かに聞こうとトコトコ歩いていくメーナ。
マナミにもリーベにも飛んではダメと言われて、ちゃんと守っている。
一度守らずにこっそり飛んだら、いきなり落ちて頭を打った。
とても痛くて泣いていると、マナミに見つかり撫でてもらいながらも、飛んだことがバレて怒られた。
とても怖い声でもう絶対飛ぶなと言われてしまったのだ。
痛かったのよりも、マナミの顔と声が怖くてもう飛ぶのはやめようと思った。
そもそも飛んでもあまり変わらないと気付いたから。
このスパイラルアークⅡは広いようで、それほど広くはない。
どちらに向かって歩いても、疲れる前に端っこにたどり着くと学んだのだった。
「あ!リステル!」
丁度第一格納庫から上がってきたリステルを見つけて、マナミに言われたことを聞くリーベ。
リステルはちょっとだけ考えてニコリと笑う。
リステルは楽しい時も怒っているときですら笑うので、ニコリとしても油断してはいけない。
「きっとアイ04は一人でいる時間が必要なんだよ。一人で、自分だけで考える時間は大切だよ」
リステルに難しいことを言われ、「うん、わかった」と言うメーナは全く解らなかった。
結局マナミと同じ事を別の言い方でいっただけだと、メーナは感じた。
そしてあれも笑っていない笑顔だなと、察した。
とぼとぼと誰か教えてくれないかなと歩いていると、リーベが倉庫からものを運んでいた。
「リーベママぁ!メーナが手伝うよ!」
大きな袋を3つももっているリーベが大変そうだったので、メーナも手伝う。
「はい、いい子ねメーナ。じゃあこれをお願いね」
そういって小さめの袋を渡された。
結構重かったが、メーナは頑張ってキッチンに運ぶ。
どうやら今から晩御飯の準備らしく、食材も他のものと一緒に運んでいたらしい。
取り出した材料から、今夜はカレーかシチューだなと、メーナはにっこりする。
どちらも好物だった。
そうして少し手伝いをしながら、マナミとリステルに言われたことを聞いた。
「そうね‥‥」
リーベはゆっくり考えながら、調理の手は止まらない。
メーナはお手伝いの玉ねぎの皮剥きですら、話している間は手が止まっていた。
「メーナがもしも私と離れ離れで会えないとしたら、悲しい?」
メーナはリーベの言葉にショックを受ける。
言葉が出てこないで、ぽろぽろと涙がこぼれた。
すぐに気付いてリーベが抱きしめる。
「ごめんね‥‥酷いことを言ったわ。はなればなれになんてならないわ、ずっと一緒よメーナ」
そういって泣き止むまで背中をとんとんと優しく叩いてくれる。
あたたかさと心地よさで、悲しみを薄めたメーナが泣き止んで、ぎゅっと抱きつく。
これは難しいなとリーベは考える。
メーナはそもそも一人ぼっちの時間がとても長かったので、甘えん坊だ。
そして事情を知っている自分やリステルはつい甘やかしてしまう。
悲しいことやさみしいことから、先回りして遠ざけてしまう。
おそらくアイ04も同じなのだ。
アイ達の中でも大人しく、皆の後ろをついて回っていた娘だ。
アイカもアイ02を失いかけた事件からは、つい先回りして悲しみを遠ざける。
そうしていて、今回の事件だった。
他のアイ達はアイ04が先に泣くので、慰める方に回り、なかなか淋しさを外に出せずにいた。
それはとても辛かったのだろうが、悲しみにもさみしさにも耐性を持つ事ともなったのだ。
ひるがえってメーナに自分がそれを出来るかと言うと、とてもできない。
こうして泣かれたら、抱きしめて取り除きたくなるのだ。
そうして今のアイカのように、子どもたちの側にいてあげられない事があったら、より悲しい思いをさせてしまう。
今のアイ04のように。
だからマナミもリステルも一人にする必要があると、メーナだけではなく、他のアイ達に仕事を割り当てたり、連れて歩いて会わせないようにしていた。
リーベはそれはアイ04のためでも有るのだなと理解は出来る。
ただ眼の前でアイ04に泣かれたら、抱きしめてしまうだろうとも思うのだ。
そしてそれも間違いではないのだと確信している。
アイ04にはそれも必要だとリーベは思うのだった。
「もしもアイ04とお話するのなら、元気付けるのではなく、お話を聞いてあげるといいわね」
メーナは少し違う話しを聞いて、それが自分の望むものだったので、喜ぶ。
「うん、わかった!」
メーナはやはりリーベママは大好きと、ちゅっとキスをして、アイ04を探しに行った。
リーベはそれを見送り、すこし笑顔に影を落とすのだった。
ごめんねアイちゃんと、口の中だけでささやいた。
リステルよりもマナミよりも、リーベはアイ04に厳しい事をしたのだ。
それはまるでメーナを甘やかす愚かを償うかのようだと、詫びるのだった。
アイ04は同じところにいた。
第二格納庫の羊達がいるフロアにある、小さな椅子に座っていた。
羊たちは反対側なので、今は声も聞こえないようだ。
「アイちゃん‥‥」
メーナはそっと声をかけて近付く。
アイ04は、はっとなって後ろを向いて顔を隠した。
メーナはなんだか悲しくて、ぎゅっと背中に抱きついた。
「アイちゃんはメーナが嫌いになってしまったの?」
顔を背ける理由がわからないメーナは、嫌われてしまったのだと思ったのだ。
「ち、ちがうのよ‥‥ちょっとだけ待ってね」
甘えん坊のアイ04も、メーナには弱さを見せたがらない。
近くに行けば泣き止んで、我慢しなければいけないと、マナミもリステルも気を使ったのだ。
眼の前でアイカにまたしばらく会えないのだと突きつけられ、4人共泣いてしまった。
いつも甘えているアイ04も、他のアイ達に甘えられずこうして持て余していたのだ。
他の3人も自分と同じだけさみしくて、悲しいのだと解っていたから。
じんわりとメーナの温度が伝わってくる。
この身体には高感度の温度センサーがあるというわけではない。
アイカやジュノ達が長い時間をかけて教えてくれたのだ。
こうして寄り添うと温かいのよと。
だから今メーナがくっついていて、クスンと泣いているので、温かいのだと感じる。
そっとメーナを抱きしめるアイ04。
しっかりしなくてはと、心に力を入れた。
「ごめんね、もう平気だよ。ちょっと鼻水を拭いていたから、見られたくなかっただけだよ」
そういってにっこりと笑うアイ04には、もう悲しみの影はない。
それをこの妹に見せるわけには行かないのだと、心を殺したのだった。
リーベの想像どおりに。
メーナはアイ04の笑顔に安心して、にっこりと笑う。
そのメーナの笑顔は、アイ04をそっと癒やしてくれるのだった。
「いい子ね、もう泣かないのよ」
そういって頭を撫でてあげられるのだった。




