【メーナの勉強ノート3】
8/30 くもり
せんせい:リーベママ
「メーナはどの色が好きかな?」
リーベが拡張表示した3Dの画面で、メーナに色を選ばせる。
新しい洋服を作るので、そのデザインをしていた。
「あたし黄色いのが好き!」
メーナは黄色系統の色が好きだ。
明るいレモンイエローの色相を指さした。
それはもともと月だったからではなく、単に好みなのだと思われた。
「そうなのね。今回はアイちゃん達とおそろいになるから、白が基本なの。じゃあメーナのは黄色い線を入れましょう。リボンも同じ色にしましょうね」
「わぁい!」
むぎゅっとリーベに抱きつくメーナ。
メーナは最初からだが、リーベに対しては遠慮はなく、疑う気配もない。
『リーベはあなたが欲しいのよ‥‥』
そう最初に言われて手を伸ばされたのだ。
メーナは無条件にそれを信じて、自分の全てをリーベに与える。
気持ちも思いも愛情も。
リステルと相談してリーベもローテーションに入り、交代でメーナに教育をすることにした。
最初は距離を置いていたリステルとも、マナミとも今では打ち解けたようで、リステルの目論見どおりとも言えた。
リーベのお腹にうりうりと顔を押し付けるメーナは満面の笑みだ。
年齢らしい可愛らしい笑みに、リーベも微笑みを漏らす。
「デザインはこうなるのよ。ほらみて」
よいしょとメーナを膝の上に上げるリーベ。
実際にはメーナの重量は構えずとも持ち上がるのだが、リーベは丁寧に持ち上げる。
ふんわりと掴み、そっと持ち上げるのだ。
そこにはメーナを大切に思う気持ちが込められていて、メーナもそれを幸せと受け取る。
身長1mちょっとのメーナは座ると丁度画面が見やすかった。
今まで見上げていたので、わからなかった形が見えてくる。
実は先日アイカとも相談し、アイ達にアンドロイドの義体を準備していた。
一日中格納庫にいては、イヤなことばかり考えてしまい、精神衛生上良くないとリーベが提案したのだ。
式からは出さないようにアイカに言われたので、式のまま収納し、式神改のように中から操らせる。
アイカの式は式を操るのだ。
これはもちろん異常事態なのだが、誰も不思議に思わない。
アイ達を式だと認識できないのだ。
実際メーナにも式を操る訓練や、放出系の式も練習させている。
メーナも存在としてはアイ達と同じ”式”に該当する。
魔法式によって縛って形をなす存在。
古くは”使い魔”などとも呼ばれた、人ならざるものだ。
リーベはメーナを観察することで、逆にあのクライアント達が月に仕掛けた仕組みを読み取っていた。
月の表面に大量にあったルティル鉱石の一部を魔法で加工し、魔法式を積層して描いていったのだ。
それは恐ろしいほどの規模で緻密に描かれ、35万km彼方の衛星からアルドゥナの地表を見張っていた。
月自体をあのクライアントは式と成し、数万光年先から魔法リンクしていたのだろう。
スパイラルアークⅡやリーベのコードから抜いたデータやイベントを、月を経由して何かの手段を持ち、手に入れていたのだ。
(おそらく私達の知らない‥‥あの遺跡で出会った存在のような力を持っているのだわ)
その想像は恐ろしくもあり、メーナを痛ましく思うことともなる。
メーナは自意識を持ちながらもその式として縛られて全てを見てきたのだ。
ヴェスタやジュノ達の苦しみも、リーベの過ちも全て見せられてきたのだ。
先日一緒にお風呂に入り、身体を洗ってあげていたときに、ふとメーナはリーベの胸を撫でる。
『ここはもう痛くない?』
そういって、かつてファレチフに傷つけられ、今はもう治った場所を撫でたのだ。
メーナの優しさと共に、この幼い魂にあの罪を見せてしまったのだと、また後悔の念に苛まれた。
何度か似たようなことがあり、確信したのだ。
メーナは全てを記憶しているのだと。
『私も忘れたから、メーナも忘れてね』
そういってそっと抱きしめたのだった。
メーナは何も言わず、ただ目を赤くして何時までもリーベの胸をなでるのだった。
そうして思考に浸るリーベを、明るい声が引き戻す。
「メーナはアイちゃん達とお揃い嬉しいな!」
そういって少し興奮した様子。
格納庫に遊びに行くと、アイ01や03が楽しい遊びを教えてくれて、仲良くしてくれるのだ。
昔アイ達が見た楽しい映像なども見せてもらい、すっかり妹のように可愛がられていた。
ちょっとお姉さんぶるアイ01などが、とても愛らしいなとリーベは思ったので、早く身体をあげたいと、設計を急ぐ。
もう本体は出来上がっていて、今はスキンとも言える表面のデザイン中だ。
着替えもしたいだろうなと、ちゃんと服も交換できる仕様だ。
そして今はその服を作っていた。
「よし、じゃあ完成よ。プリンターに行ってみようね」
「うん!」
床に下ろして手を繋ぐと、第二格納庫にある3Dプリンターを見に行く。
格納庫にはアイ達もラッチされているので、一緒に完成品を見られるわよと話し、メーナは嬉しそうににこにこしていた。
そこには何の影もなく、憂いを感じ取るのはリーベの心の方だった。
いつまでもリーベは罪に囚われているのだった。




