【メーナの勉強ノート2】
8/23 あらし
せんせい:マナミ
「‥‥そんなに怖がらなくてもいいのよ。別にわたしもメーナが嫌いだと言うわけではないのよ」
じーっと半眼でにらむメーナ。
リステルやリーベと違い、マナミには何度も怒られているので、警戒していた。
轟々と外は嵐が訪れ、カモフラージュしてビルの影に駐機しているスパイラルアークⅡがキシと震える。
別に体罰を与えた訳では無いし、声も荒らげたわけではない。
他の二人が甘やかすので、ついついマナミばかりが怒っているように見えるのだ。
今も柔らかい表情で、柔らかい声をだしている。
マナミは特別優しい声をと思った訳では無いが、基本的にマナミの声は柔らかく響く。
それはリーベともアイカとも少し違う響きで、リステルの影響かもしれない。
リステルはとても柔らかくマナミに話しかけるので、合わせて答えている内に馴染んでしまったのだ。
アイカ達姉妹の精神年齢は実はそれほど違いはなく、3人共まだまだ幼い精神年齢なのだった。
それはとても影響を受けやすく、容易に変化する。
「マナミはこわいから嫌い」
ふいと横を向くメーナ。
マナミはため息で、表情は変えなかった。
「嫌いでもいいから話しを聞いてよ」
マナミの声には心配する様子。
リーベの愛する娘を嫌うわけもなく、マナミも仲良くしたいとは思っている。
マナミは今まで受動的に仲良くしてもらったので、どうやって人と仲良くなればいいのか判らない。
マナミが聞いてと言うと、メーナは視線を向けてくる。
ほとんど初めてと言う感じで二人の視線が交わった。
「おこらない?」
メーナは恐る恐るたずねる。
ここで、にっこり笑って「怒らない」と言えばメーナは距離を詰めてくるのだが、マナミは知らないので、普通に対応する。
「必要なら怒るわ。貴女のためにね」
真剣にマナミはメーナを大事に思いそういうのだが、メーナには伝わらない。
なぜ怒るのかが理解できないから。
「怒るならお話ししない!」
ふいっとまた顔を横にしてマナミを見るのを辞めてしまうメーナ。
これは困ったなと、がっかりするマナミ。
ジュノと仲良くなったときのことを思い出してみるマナミ。
リーベの為に必要だと思い、ジュノに近づいた気持ちもあったが、マナミ自身がジュノに好かれたいと思った経緯があった。
自分を通してリーベを見てもらい、リーベの人となりや優しさ、やむをえなかった事情を知ってほしかった。
リーベの為と言うよりも、マナミの大切なリーベを悪く思われるのが辛かったからだ。
(ん?つまり自分のためだった?)
マナミは自己分析や内省をしたことがなかった。
ちょっと面倒になってきたマナミ。
「メーナと仲良くしたいのよ!」
ストレートに勢い良く告げてみた。
「イヤ!!」
そのままの勢いで跳ね返るように即答の否定で、マナミは途方に暮れる。
そこでマナミは初めてメーナの中に自分を重ねて見てしまう。
(これはリステルに甘えてわがままを言っている時のわたしとそっくりだわ!)
愕然とするマナミ。
リステルはこんな気持で自分を見ていたのかと。
(コレハヒドイ‥‥)
マナミは心に誓う。
もうワガママは言うまいと。
人のふり見て我が身を省みたのだ。
がくぅと落ち込むマナミ。
テーブルに突っ伏してしまう。
両手で顔を覆い、とても人に見せられないと感じてしまう。
その姿が、あまりに弱々しく憐れだったので、メーナは心配してしまった。
じーっと見ていたが、とことことマナミの隣まで来てジャンプ。
軽々自分の身長を超える高さまで、ふわりと飛び上がりマナミの頭の横にすとっと着地する。
そのまま膝をついて、ぎゅっとマナミの頭を抱きしめた。
「ごめんね‥泣かないで‥‥‥怒らないのならお話するよ?」
マナミはまた愕然とした。
メーナが自分を慰めたのだと理解し、その包容力と行動力に驚いたのだ。
(そ‥‥そんな‥‥わたしはメーナ以下の精神年齢だというの?!)
さして変わらないのは本当なので、否定しきれないマナミ。
メーナはマナミが震えているので、よしよしとしてあげる。
基本的にはメーナは淋しがりで人懐こく、優しい少女なのだ。
ただ怯えて自己防衛のために刺々しい態度を取っていた。
マナミは自分に重ね合わせることで、その心理を知り、自分以上に大人な対応をしたメーナに恥じる。
(こ‥‥これではどっちが年上だかわからないわ!?)
実際には二人とも1才にも満たない赤子のような精神なので、同い年なのだった。
義体に引かれて口調や所作は変化するので、言動だけ見ればマナミが年上に見える。
(そんなはずはない、わたしは一年近くかけて学んできたのだ!ぽっと産まれたてのおチビちゃんより子供だなんて!)
まさにその通りの現状に、否定しきれないマナミ。
(‥‥わたしは実際に子供なのでは?)
そこまで思考して、ついに結論に至るマナミ。
メーナはついに子守唄まで歌い出し、背中をぽんぽんとしている。
(ちがうもん!子供じゃないもん!)
そう叫ぼうとして、それでは子供だと自白するようなものだと踏みとどまった。
怒り出すわけにも行かず、ありがとねとふんわり笑うような事もできない。
マナミはただ恥ずかしくて震えているしか出来なかった。
だんだんと子守唄が耳に心地良く、メーナが温かくいい匂いで眠くなってくるマナミ。
ついにメーナに寝かしつけられてしまうのだった。
メーナはマナミが震えなくなったので、安心して自分もおおきなあくびをする。
マナミをだっこしたまま、すやすやと寝てしまうのだった。
いつの間にか嵐は去り、静かな午後の中気持ち良さげな寝息だけが漏れるのだった。
仲の良い姉妹のように、抱き合って。




